オフィス×アートがもたらす効果を検証する実証実験の結果報告
アート作品によるオフィス利用者の行動·心理変化を検証する実証実験を行いました。
この記事では、その実証実験の検証結果について紹介していきます。
カバー写真:ライツ撮影事務所
写真:ライツ撮影事務所、B-OWND
実証実験の検証内容
2020年8月24日~2021年1月22日の期間、丹青社が参画している会員型コワーキングスペース『point 0 marunouchi』において、B-OWNDに参画するアーティストの作品を展示することで生まれる、オフィス利用者の行動及び心理の変化を測定する実証実験を行いました。
期間はフェーズ1(2020年8月24日~2020年10月30日) 、フェーズ2(2020年11月23日~2021年1月22日)の2回に分けられ、それぞれ作品を総入れ替えして検証を行っています。
作品は、執務スペース、会議室、通路など、オフィス空間全体に展示され、利用者はオフィスに滞在中、さまざまなシーンでアート作品を目にすることになりました。
また、フェーズ2においては、展示中の花器に生け花を生けることによって、花器の見せ方に変化をつけるという試みも行いました。
検証は、以下の4つの方法で行いました。
- 人感センサー·画像センシングによる測定
- 感情データを収集するKOKOROスケール(アプリケーション)
- B-OWNDでの作品購買およびアーティストへの寄付による支援の有無
- アンケート調査
今回の記事では、この実証実験の結果のうち、「アートが空間にもたらす効果」について、特に効果の確認ができた項目について抜粋してご報告します。
実証実験から得られたアートが空間にもたらす効果
【アートが空間にもたらす効果検証1:鑑賞人数や鑑賞時間の関係】
まずは全体として、鑑賞者数をカウントしました。上の表は、アート作品を展示してからの日数と鑑賞人数のグラフです。
フェーズ1では、複数の施設見学者がpoint 0 marunouchiに来場され、カウント数が突き抜けている日があること、フェーズ2では年末年始休暇から緊急事態宣言もあり、後半来場者が少なかったものの、概ね興味関心はアートを展示してから2週間がピークということがわかりました。
また、鑑賞時間の平均は約35秒であり、中央値は16秒でした。一般的な美術館での鑑賞時間は17秒とされていますが、同程度の時間、ひとつの作品が鑑賞されています。
【アートが空間にもたらす効果検証2:アンケート結果より】
実証実験の一環として実施したアンケート調査では、アートをオフィス空間に導入することで期待できる効果は大きく3つあることがわかりました。
- その1 空間に大きな影響を与える。
- その2 気分転換やリフレッシュなどの快適さを向上させる。
- その3 場の印象を変える。
上記の結果を導き出すに至ったデータは下記のとおりです。
「実証実験を通して、アートは(働く)空間に大きな影響を与えると思いましたか?」の質問においては、半数以上の人が「とてもそう思う」と回答しています。
また次の表では、アンケートのその他の内容についてまとめています。
アート作品の設置が「気分転換やリフレッシュなどの快適さを向上させる」に対して、約76%が「はい」と回答、そのほかにも、設置したオフィスのブランディング向上といった、ポジティブな場の印象の変化について、肯定的な意見が見て取れます。
なお、「気分転換やリフレッシュなどの快適性向上」に効果があると回答した方の理由としては、次のようなものが挙げられます。
- 理由1 気分を変えるために作品を眺めて頭を切り替えられる
- 理由2 鑑賞している間は完全に仕事のことを忘れていた
- 理由3 ふとした瞬間に視界に入ることでリフレッシュできる
- 理由4 視界に入る色などで気分が変わるなど場の印象が変わった
- 理由5 仕事に疲れたときにアートを見ると癒される
- 理由6 アートも植物と同じで空間をより良くする豊かなものだと感じた
これらの理由からも明らかなように、アートがオフィス空間に導入されることで場の雰囲気を変え、そこで働く人たちの快適性に貢献する可能性があると言ってよいでしょう。
【アートが空間にもたらす効果検証3:滞在場所ヒートマップより】
続いて、アートが人の感情、行動に与える影響に関しては、いくつかの結果が確認されました。
まず、アートが空間に取り入れられることによって、その場所への呼び込みや滞在時間の増加が期待されます。実際に、『point 0 marunouchi』でも次のようなデータを取得できています。
下図は、滞在場所ヒートマップです。左がアート設置前の約2ヶ月、中央がフェーズ1の2ヶ月、右がフェーズ2の2ヶ月の様子を表しています。
図左の「アート設置前」と比較すると、人の流れが特に少なかった中央下付近では、明らかに滞在時間が増えています。ここから、アート作品が人の行動に影響を与えていることがわかります。
さらに、フェーズ2(図右)では、生け花で、花器の見え方に変化を加えた展示を実施しました。展示箇所のマップ中央では、明らかに滞在時間が増加しています。
【アートが空間にもたらす効果検証4:KOKOROスケールより】
株式会社Kokoroticsが開発した「KOKOROスケール」は、人の主観や心地を可視化できるアプリケーションです。心の動きを4象限マトリックス内で表示することができ、またそれらを統計的に解析することで、気分の変化の特長や、集団としての傾向などを科学的に把握することができます。
今回は、作品から感じる主観的な感情を調査することなどに用いました。
この「KOKOROスケール」によって計測されたデータを踏まえると、オフィス内でアート作品を鑑賞した後に、やる気、安心、捗り、創造性を高められることが、下図の右の<アート鑑賞直後(通常検証)>より読み取ることができます。
図の中央·右は、特別検証として、アート作品のそばで30分仕事をした後の気分の変化をまとめたものです。中央がやる気、右が仕事のはかどりについての変化を表しており、それぞれやる気·安心·捗り·創造性が高くなっていることが分かります。これらからアートがある環境はやる気やクリエイティビティに寄与するということが導きだされました。
実証実験を終えて
検証期間に緊急事態宣言や長期休暇などが含まれたことで、実証実験のサンプル数を取得するのに手間取ったものの、アートが空間に及ぼす影響に関する貴重なデータを収集することができました。
また、実証実験の過程では、アート作品をただ展示するだけではなく、施設の来館頻度に合わせて交換したり、季節などの時期に応じて定期的に変化させたりすることで鑑賞回数が伸びるなど、オフィスにアートを導入するにあたって実践的な見地も得られました。
引き続き、B-OWNDでは、アートが空間にもたらす価値を探求し、みなさまにお伝えできればと思っております。
WORDS
point 0 marunouchi(ポイント ゼロ マルノウチ)
ダイキン工業株式会社、株式会社オカムラ、ソフトバンク株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、三井物産株式会社、ライオン株式会社が2018年7月30日に共同発表した、空間データの協創プラットフォーム『CRESNECT(クレスネクト)』を活用し「未来のオフィス空間」づくりを目指すプロジェクトのひとつ。 https://www.point0.work/