施井泰平×石上賢 対談 | NFTの出現でアートはどう変化した?

BUSINESS
2018年以降、アートのさらなる発展をめざして共に歩んできたB-OWNDとスタートバーン。
4年が経過した現在、両者はどのような活動を展開しているのでしょうか。
今回の記事では、NFTの登場によって、アート、工芸はどう変わり、
またこれからどうなっていくのかに言及しながら、現在の活動について語り合います。
文・写真:B-OWND

PROFILE

施井泰平

現代美術家、起業家。2001年、多摩美術大学卒業後「インターネットの時代のアート」をテーマに美術制作を開始。現在世界中のNFT取引で標準化されている還元金の仕組みを2006年に日米で特許取得するなど、業界トレンドの先手を打っている。2014年、東京大学大学院在学中にスタートバーン株式会社を起業し、アート作品の信頼性担保と価値継承を支えるインフラを提供。事業の中心である「Startrail」は、イーサリアム財団から公共性を評価されグラントを受ける。スタートバーン株式会社代表取締役、株式会社アートビート代表取締役、東京大学生産技術研究所客員研究員を現任。東京藝術大学非常勤講師、経済産業省「アートと経済社会を考える研究会」委員など歴任。

 

石上賢

1992年、愛知県生まれ。B-OWNDプロデューサー。画家の父、画商の母の元に生まれる。国内芸術家の経済活動の困難さを目の当たりにし、10代からアート作品の販売、大学在学中よりアーティストのプロモーション活動を開始する。これまでに50を超える展覧会の企画に携わる。2019年、アート・工芸×ブロックチェーンのプラットフォーム「B-OWND」を立ち上げる。

はじめに

2019年5月よりサービスを開始した、アートとしての工芸作品を販売するオンラインマーケット「B-OWND(ビーオウンド)」 は、アートの価値をブロックチェーンで支える「スタートバーン株式会社」(以下、スタートバーン)と連携し、ECサイトで販売した作品にブロックチェーン証明書(NFT)を発行してきました。

スタートバーンは、代表の施井泰平氏が美術家ということもあり、クリエイティブなものの価値や権利を守りたいという思想を事業の起源にしています。そしてプロダクトには、随所にその思想が反映されています。現在では、アートにとどまらず、さまざまな分野にブロックチェーンの技術を提供しています。

スタートバーンが提供するStartrailは、スタートバーンが構築を先導する、アートのためのブロックチェーンインフラ。
アート作品の信頼性と真正性の担保ひいては価値継承を支える。
詳しくは(https://startbahn.io/ja/startrail)を参照

B-OWNDとスタートバーンは、実物作品に紐づけるブロックチェーンのデジタル証明書(NFT)の発行を続けているほか、2022年には、アーティストとコラボレーションし、デジタル作品にブロックチェーンを紐づけた、すなわちNFTアート作品の制作においても協力しています。

2018年以降、アートのさらなる発展をめざして共に歩んできたB-OWNDとスタートバーン。4年が経過した現在、両者はどのような活動を展開しているのでしょうか。今回の記事では、NFTの登場によって、アート、工芸はどう変わり、またこれからどうなっていくのかに言及しながら、現在のお互いの活動について語り合います。

この4年間を振り返る

石上 施井さんと一番初めにコンタクトを取ったのが、2018年の夏ごろだったと思います。スタートバーンが資金調達一億円ということを発表されて、その当日か翌日にご連絡したのが始まりでしたね。

施井 そうでしたね。懐かしいです。

石上 その後、東大内のオフィスでお会いした時は、まだ社員の方も2、3名だったと記憶していますが、現在は70名に増えたということで、本当に急成長されました。また、2年前から海外展開をより意識して、社内公用語を英語にされたりと、今後さらなる展開が期待されています。

B-OWNDも、ずっとスタートバーンさんとともにお仕事をさせていただき、徐々にですが成長してきました。昨年一年は特に著しくて、取扱高だけでいうと前年度比約1000%増になったり、僕自身もいろんな方とお会いするなかで、認知も広がってきているなあと感じています。

施井 1000%というのは、すごい成長ですね。

石上 ありがとうございます。ブロックチェーン(NFT)を巡る状況も、この4年間でかなり変わったと思います。ということで、一度ここでスタートバーンとB-OWNDの「これまでの取り組みと、これから」といった大きなテーマで対談させていただければと思い、今回企画させていただきました。

施井 本日はよろしくお願いします。

「アートの民主化」は、やっとスタート地点に

石上 早速ですけれど、4年前、ブロックチェーンとアートの掛け算というものは、世の中に全く浸透していないし、NFTという言葉自体も知っている人はほとんどいないという状況でしたが、現在は大きく変化しました。当初、施井さんが思い描いていた「アートの民主化」(※1)を起こそうという目標は、どのくらい進んだのか、現在の状況をお聞かせいただけますか。

施井 なるほど、それは今お話しするのに、とてもいいタイミングです。というのも、NFTの世界は今、一時期のバブル状態からベアマーケットといって、全体的に活気が少し減ってしまっている状態です。マーケットが一時より半減しているんですよ。

もちろん僕たちは、いつかデジタル作品のためにNFTが活用される状態が来るだろうと予想はしていたのですが、実際に来たとき、予想以上に「波」が大きすぎて、まったくコントロールがきかない状況でした。なかにはOpenSeaが全てで、それ以外は悪というような風潮もあり、そういった部分も難しい状況を作り出していました。

施井 ですが逆に言うと、一部で信頼を失ってしまった今だからこそ、ようやくNFTは真に価値があるものなのだと実証するような機運が高まっていると思います。そういう意味では、本来の「民主化」を、やっと広げていける状況になったのかなというふうに感じています。

ブロックチェーン(NFT)登場で、アート業界はどう変わった?

石上 お会いしたころ、施井さんとお話していたこととして記憶に残っているのが、アート界のボトムアップのお話です。たとえば、スポーツ業界のサッカーであれば、通常ピラミッドのような構造になっていて、ユースのカテゴリからプロになり、プロにもJ1、J2があります。

ですが、アートの世界ではそもそもピラミッド構造になるのは難しく、その理由のひとつとして、贋作や証明書の問題があったと思います。

とすると、当初はブロックチェーンの登場によって、ピラミッドが形成されていくかと思われたのですが、実際には、既存のアートとNFT作品の2つが生まれることになりました。もちろんその2つに重なりはあるのですが。

施井 そうですね。僕たちスタートバーンがもともと考えていたこと、そして今でもやりたいと思っていることは、アート業界全体が広がっていき、そのヒエラルキー全体を保ったまま拡大していくというイメージでした。ですが実際には、NFTによって、また別のカルチャーができたという話です。

実は前提として、僕たちがアート業界の全ての層に対してアプローチしているとき、そもそも全てが膠着状態にあったんです。それをブロックチェーンの技術によって、「内部」からアップデートすることを試みましたが、全然うまくいかなかった。一方で、NFTという大きな存在ができたことで、既存のアートがその影響を受けているというのが現状だと思います。

そこで今見えてきたのは、既存のアートを「内部」から変えていくには、もっともっとそれ自体が大きくなる必要があったんだということです。

還元金の構想を先に実現できたのは、デジタルアートだった

石上 なるほど。スタートバーンさんは、アート以外にも、ファッションやスポーツの分野にも技術を提供されていますね。それらの活動も、その拡大ということを見越してなのでしょうか?

施井 そうです。基本的に、デジタルトランスフォーメーションをしないと、そもそもブロックチェーンの文化が発展しないんですよ。そのきっかけづくりでいろんなものに挑戦しているという感じです。ネットワークを使って、ちゃんと信頼性のある取引がされるとか、還元金が送られるといった、本当のベースの部分というのは、デジタル作品の方が圧倒的に進みが早かったんです。

先ほど「内部」という言い方をしましたけれど、それは定義を少し変えると、物理的な作品と言えると思います。でもそれらは結局、ブロックチェーンでのコントロールがすごく難しかった。

現在も、物理的な作品の証明書依頼は増えているのですが、これを主軸に還元金ネットワークをつくるというのは、正直ものすごくカロリーを使います。一方で、デジタル作品というのは、ネットワーク上ですべて制御できますから、消費カロリーが圧倒的に少なくて済むんです。すでにデジタル作品に10%の還元金が設定されていないと炎上するというような世界になっているくらいですから、比較してもかなり進展していることがわかると思います。

ということで、結局、既存のアート業界で今やるべきことっていうのは、デジタルトランスフォーメーションなんだというところに考えが至ったんです。

ブロックチェーンは既存のアートの「カテゴリ」を溶かすか?

施井 ちょっと複雑な話ですけれど、アートって究極的にはカテゴリが関係ない話だと思うんです。人間が作ったモノならば全てクリエイティブじゃないですか。そのデザインがよかろうが悪かろうが、用途があろうがなかろうが、どんなふうに受け止められても全部クリエイティブです。それが、たまたま卒業した大学とか、展示しているギャラリーとかによってカテゴライズされているだけだと思っているので、改めてそのあたりはもっと柔軟にしていく必要があるとは考えています。

石上 おっしゃる通りです。僕がB-OWNDを始めたときも、まさしくそのカテゴリの罠があったというか。工芸は、クラフトと訳されて、とくに海外ではアートとして認識されていません。そして、やはり工芸自体も素材で作品を語ることがあったりと、既存のアートを語る文脈とは違った、独特の文脈を持っています。

僕自身は、そういったバイアスのようなものを取り除こうという考えがあり、ブロックチェーンの技術が、アートのカテゴリ自体を徐々に溶かしていってくれるんじゃないかと、期待していました。たとえば、いいか悪いかはさておき、OpenSeaのように、あらゆるものが一つのプラットフォームに終結することで、そういったことが可能になるような気がしていたんです。

施井 そうですよね。K1みたいな感じ(笑)

石上 そうそう、総合格闘技のような(笑)。僕自身はそれは面白いと思うのですが、実際のアーティストの方って、ブロックチェーンができたことによって、カテゴリがどんどん溶けていっているような感覚ってあるんでしょうか?施井さんはアーティストでもありますから、そのあたりどう感じていらっしゃるかお聞かせいただきたいです。

施井 そういう意味では、B-OWNDのブランディング展開って、すごく今後の参考になると思います。ある種自分たちのプラットフォームを持っていて、ブランディングするサイト、キュレーションサイトもあり、最終的にはいろんな場で取引できるブロックチェーン上で繋がっていく、という世界じゃないですか。

参加されているアーティスト達も、工芸というキーワードのなかで、代々の家業を継いでいらっしゃる方もいれば、現代美術の領域で工芸的な表現をされている方もいて、カテゴライズをすごくうまくいかしていると思っています。

石上 嬉しい。

施井 これからクリエイティブは、本当に大きなカテゴリで再興するような時代になっていくんじゃないかと思います。そうなったときに、人に興味を持ってもらい、そこから販売につなげるためには、どうしてもブランディングやキュレーションが必要になってきます。今後、この二軸の強度を高めていくことが、さらに重要になってくると思っています。

ビジネス×アート難しさ

石上 ありがとうございます。今後の参考になると言っていただいて嬉しいのですが、一方で、僕自身では悩んでいると感じていることもあって。それは、ビジネスの分野でアートを扱っていくことの難しさです。経済なき文化はあまり発展していかないし、一方で文化なき経済は無目的で、あまり意味がないという言葉もありますよね。

ビジネスでお金を稼ぐことと、もともと考えていたビジョンをずらさない、そのバランス感覚が非常に難しいなって感じているんですけれど。これは、きっとNFTの今の状況とすごく似ていると思うんですよね。スタートバーンさんは、ビジネスの部分とビジョンの部分、どういう風に整合性を取っていらっしゃるんでしょうか。

施井 難しいですよね。はっきり言うと、僕らは、別にお金を稼ぎたくないわけじゃないんですよ。本当に価値のあるものをつくって、きちんとした状態まで持って行かなきゃいけないというのを優先しているだけですから。一般的に、上場企業でもスタートアップでも、やはり収益化を急かされるわけです。そのなかで、失うものがあるというのを認識しているだけで、収益化を重要視していないわけじゃない。

石上 本当にそうです。

施井 一方、アートも経済を軽視するようになってしまったので、即物的なポピュラリティに寄ってしまって、本当に心あるアーティストが排除され、評価されなくなった。だから、そこで分断が起きてしまっていると思っています。

お金は、きちんとデザインされていれば、いい作品の制作や、価値あるものを残すツールとしてかなり有効なはずなんです。それが社会の仕組み上、早く利益を出さなければ評価されないかたちになっているから、結果的にファストファッションのようなものだったり、消費されて終わるようなもの、つまり雑な形でやっていかないとやっていけない構造になってしまっている。問題はここだなと思いますよ。

そう考えると、やっぱり本番は海外展開かなと考えています。

たとえば工芸作品は、国内ではある程度の値段になってきているかもしれないけれど、海外の人から見たら、まだまだ低価格じゃないですか。海外に持って行ったときに、工芸の本当のバリューに対してお金を払うことができる人たちの層がごっそり買うようになるのは、当然イメージできるし、その場合、100倍の値段がついてもおかしくないです。

ブロックチェーンが工芸に寄与できること

石上 先日NYに行ってきたんですよ。そこで、工芸やアートギャラリー、プロデューサー、キュレーターの方など、いろんなアート関係者にお話を伺いました。そのなかで、工芸の可能性って、まだまだ広げられるなと感じました。

そこで重要だなと思ったのは、箱書(※2)の機能です。箱書というのは、ある種の証明書なのですが、海外では特に知っている人が少ない。工芸の付加価値を上げていきたいと思えば、エディションなしで何個も作ることは好ましくないですよね。ですから、これからはそういった部分をきちんと管理することが、付加価値を上げていくポイントになってくると思うんです。

施井 なるほど、エディションなしで制作されているんですね。

石上 そうなんです。なので、そういう意味でも僕たちがデジタル証明書を発行し続けていくということが、長期的に見ても工芸全体の信頼度の担保に繋がっていくと思います。

施井 それはいいですね。

石上 B-OWNDの作品を海外に出すときも、常にスタートバーンさんのNFTを付けていきたいと考えているので、スタートバーンさんの認知度が海外で上がっていくのは、我々としてもありがたいです。

施井 頑張ります(笑)。

これからも良きパートナーとして

石上 最後になりますが、スタートバーンさんとは、2018年から一緒にお仕事をさせていただいているじゃないですか。そのなかで、B-OWNDがスタートバーンさんの成長に寄与させていただいたりした部分は、ありましたか?

施井 やっぱりシナジーがすごくあるパートナーと仕事をさせていただけているというのがいろんな部分でいい結果につながっているのかなと思います。B-OWNDさんとは、持っている課題感も似ているし、なにか話をしても常にすぐ決まるっていう(笑)。

始めた当初は、やはり未知の世界でしたから、90%は成功する自信がありましたけど、10%くらいは不安があったんですよ。それはたとえば、完全な流通管理ができるのか、実物作品にちゃんとブロックチェーンを紐づけできるか、とかね。

でも、今は全く不安がないです。お互いに思ったとおりにやっていけば成功するだろうなという確信があるし。

石上 ありがとうございます。スタートバーンさんと一番初めに連携したのは、実質的にはB-OWNDだと思うのですが、それが今後僕の自慢になっていくと思うんです(笑)。

施井 ありがとうございます。

石上 また数年後、こういったお話ができるように、活動を止めることなく成長していきたいです。本日は、ありがとうございました。

WORDS

※1 「アートの民主化」

アートの世界において、プレイヤーとして活動すること、つまり、アーティスト、コレクター、批評家、ギャラリストとなることは一般的にハードルが高い。末端にいるプレイヤーがツールを使うことで、トップまで上がっていける可能性を作ることを、施井は「アートの民主化」と語る。

詳しくは、コチラの記事を参照:工芸×ブロックチェーン その可能性とはなにか (前編)「アートの民主化」

 

※2 箱書

陶磁器や書画、茶道具といった作品を収納する箱に、作者や歴代の所有者たちが銘や来歴、署名や花押などを記すこと。箱本体はもちろん付属品の真田紐なども中身に応じて整えられていて、箱(とその付属品)を見れば中身が分かるともいわれる。茶道の世界では馴染みの深いもので、箱そのものも鑑賞の対象となる。詳しくは:https://media.b-ownd.com/archives/article/hakogaki