“art.0|アート×オフィス ~アートが「働く」を変える~”

会員型コワーキングスペース『point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)』で、
丹青社主催のオンライントークセッション
”art.0|アート×オフィス〜アートが「働く」を変える〜”が開催されました。
本記事では、トークセッション内容を紹介しながら、
オフィスとアートが掛け合わされることで生まれる価値についてまとめています。
文・構成 森本恭平

PROFILE

平山美聡

WASABI創業者/アートライフスタイリスト
慶應義塾大学卒業。株式会社資生堂入社後、2016年に独立。
通販サイト「WASABI」および法人向けサービスを運営。多数のアーティスを抱える。
実績にNTTデータ、Automation Anywhere Japan,日本オラクル、スターバックス コーヒージャパン等

 

根岸次郎
「ArtScouter」開発責任者
大阪府生まれ。大阪大学哲学科卒業。米国公認会計士。
通信会社にて金融事業の新規サービス立案、事業管理に携わった後、ニューヨークに駐在。帰国後も国際部門で海外企業と折衝する中で日本と海外のオフィスにおけるアートの活用の違いに気づき、新規事業プログラムとして「ArtScouter」を社内提案。2019年5月よりサービスローンチ。

 

吉田清一郎
株式会社丹青社  事業開発統括部長/B-OWND責任者
東京都生まれ。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。
丹青社入社後、ミュージアムや地域の観光拠点等のスキームづくりから施設運営まで数多く手掛ける。現在は新規事業開発の責任者として、アートとしての工芸×ブロックチェーンのオンラインマーケット「B-OWND(ビーオウンド)」を立ち上げる等、文化資源を活かしたイノベーション事業の開発に取り組む。

トークセッションの概要と登壇者の紹介

― 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、一気に在宅ワークが普及しました。そのなかで、「オフィス」の意義も見直され始めています。

従来のように、オフィスが出社して「ワーク」することだけを機能とする場所ならば、在宅ワークが浸透した企業が高いコストをかけて、大規模なオフィスを維持する必要はありません。業種によっても違いはありますが、出社せずに働ける環境が整った今、オフィスの価値が問い直されていると思います。

こうした時代的転換を見据えて、本トークセッションでは、B-OWNDのエグゼクティブディレクター・吉田清一郎(株式会社丹青社 事業開発統括部長)をコーディネーターとして、オフィスにおけるアートの第一人者である、平山美聡さん(株式会社NOMAL 取締役/WASABI ART&OFFICE運営責任者)と、根岸次郎さん(ArtScouter開発リーダー)のお二人をゲストに迎えて、以下のトピックについて語られました。

【トークセッションのトピック】

1. 働く空間にアートがある意味とは?

2. 日本のオフィスにはアートが少ない!?

3. アフターコロナに向けて働く環境の変化とアートの役割とは

1. 働く空間にアートがある意味とは?

― オフィス空間の付加価値を高める発想が求められる一方で、アートを導入する価値は十分に浸透しているとは言えません。「オフィス×アート」は、私たちが働く空間にどのような意味をもたらすのでしょうか?

この度、ご登壇いただいた平山さんは、「暮らしをアートに」をミッションに掲げて、現代アートのオンラインショップ「WASABI」を立ち上げられました。

そのサービスの一環として、会社の壁に世界で一つだけのアートを描くウォールペインティングを提供されており、クライアントの導入事例から働く空間にアートがある意味には、次のようなものがあると語られています。

平山美聡さん(株式会社NOMAL 取締役/WASABI ART&OFFICE運営責任者)
WASABIウォールペインティング施工実績 「NTTデータMSE / NTT DATA MSE CORPORATION
エンゲージメントを高めるために、会社にゆかりのあるモチーフを詰め込んだスタイリッシュなアート

平山 これからは、企業文化を表すオフィスじゃないと、コロナ禍だからこそ意味がなくなってくると思っています。面積の大小ではなくて、そこに行ったら、『自分はここで、この企業で働いているんだ』という感覚に戻れる象徴的な場所ですよね。それを表すためには、一般的に出回っているインテリアや量産されているものではなくて、『これはうちの会社のために誰かが作ってくれたんだ』という風なアートが、一番適しているかなと思っています。

― また、根岸さんは、AIを活用して空間に最適な芸術作品を選出するプラットフォーム「ArtScouter」を開発されており、ビジネスにアートを導入しようと試みられています。トークセッションでは、「アート思考」という概念に触れつつ、「オフィス×アート」の価値について言及されています。

根岸次郎さん(ArtScouter開発リーダー)

根岸 去年ごろから毎月のようにビジネス書のコーナーにアートの本が並びだして、「アート思考」という言葉が流行りだしました。ですが、「今ひとつよくわからない」という意見を耳にすることがあります。

よく「アート思考」が「0から1」、「デザイン思考」が「1から10」、「ロジカル思考」が「10から100」に成長させる思考法と言われています。だけど、それもよく分からないなあっておっしゃっている方が多いですね。私の解釈ではこの「アート思考」って、知覚の話なんですよね、パーセプションです。

たとえば、同じ知識量、同じ経済紙を読んで、同じ経験値を積んできたのに、「アウトプットが違う」のは、同じ情報を見たときに、どういう発想を出せるのか、何を面白いと思えるのか、そこらへんの意味を見出す力、つまり、「センスメイキング」の力が違うんだと思います。

そこはトレーニングができるところで、私たちはアート鑑賞を「正解のないリバースエンジニアリング」と呼んでいます。アーティストはモノや社会をよく観察し、いろいろな意味を込めて作品を描くわけですが、アートを見る側は、その作品に対してリバースエンジニアリングしているわけですよね。「この人、なんでこんな絵を描いたのか」と、自分の思いもかぶせながら「自分はこういう風に感じる」ということを見出すわけです。アート作品を観察して自分なりの意味を見出すこと、また、見出したものを言語化して誰かに説明して共感を広めることというふたつの意味で「センスメイキング」の力が育まれています。だから、オフィスにアートがあるとセンスメイキングの力が育まれますし、アートを選ぶプロセス自体にも非常に価値があると実感しています。

吉田 アートは、共感を得てひとつにするという象徴や、不確実性の時代と言われるなか、意味を感じとっていく力を個々人の感性で磨き上げていく「アート思考」の効果がありそうですね。

― たしかに、同じアート作品でも、見る側によって印象はまったく違います。Aさんには山に見えていても、Bさんには城に見えているかもしれない。人の数だけ解釈の幅が無限大に広がっていく。それが「アート鑑賞」の性質といってよいでしょう。

このプロセスを課題解決に応用するならば、ある問いに対して画一的な答えしか見当たらない状況でも、一人ひとりの感受性や視点を共有することで、固定概念から解き放たれた回答を見出せる可能性があるはずです。その素養をアーティストの作品と空間を共にすることで磨けるならば、先行きが不透明な時代を生き抜く「センスメイキング」を育む術として取り入れる価値があるのではないでしょうか。

2. 日本のオフィスにはアートが少ない!?

― また、企業に対して、オフィスにアートを導入する価値を訴求するには高いハードルがあると思います。本トークセッションのなかでは、この課題についてウェビナー視聴者にアンケートを募り、次のように話されていました。

「art. 0 トークセッション イベントアンケート」

吉田 アンケートを見ると、アートを導入したい・購入を検討している方が多かったように思います。検討するにあたって、お二人はいろんな企業とお話をしているかと思いますが、会社や上司に説明するというハードルをクリアするためにやってきたことは何かありますか?

根岸 ArtScouterではアートを選ぶプロセスをオンラインでのワークショップとして提供しています。BtoCは「個人で好きなものを選ぶ」という世界ですけれども、BtoBは決裁権をもっている人に説明しなければいけません。「どのように理解を得るのか?」については、『みんなでビジョンを投射してリマインドできるアートを選んだんです』というだけで、まったく反応が違ってきます。そのため、「みんなでビジョンを改めて考えるきっかけにしていくんです」というストーリー作りのワークショップをやらせてもらっています。

平山 弊社もそれが課題だと思っていて、やはりビジュアルが良いだけでは、ウォールアートなので、「ぶっちゃけカッティングシートで代用できるよね」という部分もあるんですよね。それを「生のアーティストが描く意味」は、根岸さんが仰っていたように、ワークショップがすごく大きいです。基本的にウォールアートの中にワークショップを含んでいるので、それによって「アート思考」も体感してもらう。そういう意味では、ステップアップにも繋がることも含めて、アートを導入することも検討いただけたらなと思います。

― アートをビジネスの領域に融合させようと試みる事業者にとって、その実用性をわかりやすく説明することは共通の課題のようです。これに関して、吉田さんは、丹青社が現在、『point 0 marunouchi』と連携して、アート作品をオフィス空間に配置することで生まれる人々への影響をデータとして収集する実証実験を紹介されました。これは、アートの効果をエビデンスをもって説明できるようしようという試みです。

― そのほかにも、根岸さんは、オフィスに導入されるアート作品が「事業の用に供するもの」として税制上、事業の経費として認められることを紹介されていました。これは海外では、類例が見られない制度だといいます。

1作品あたりの金額と費用処理方法

出展:ART HOURS「アートの会計処理まとめ」
https://arthours.jp/article/2019-04-art-and-tax )より

― 今後、アート業界がそれぞれの挑戦から生まれた知恵を共有しながら、お互いの実践を補完し合うことで日本のオフィスにアートが根付く日が訪れるかもしれません。

3. アフターコロナに向けて働く環境の変化とアートの役割とは

― 辞書的な意味でいえば、オフィスは「作業の場」です。しかし、その作業がオンライン上で完結するならば、オフィスの価値それ自体をアップデートしないと「デッドスペース化」してしまうおそれがあります。

また、在宅ワークやソーシャルディスタンシングなど働き方が変化するなかで、コミュニケーションの課題が生まれ始めているといいます。

「アフターコロナ」という新しい時代の到来に対して、「アート×オフィス」だからこそ実現できることは何なのか。その答えを展望する視座として、トークセッションの内容を紹介したいと思います。

平山 新型コロナウイルス感染症の流行以降にウォールアートを導入した事例になるのですが、皆さんが持たれている課題感としては、社員同士が分断されてしまってコミュニケーションの機会がないということです。具体的にいえば、企業に所属している意識とか、企業のミッションやバリューを家ではなかなか意識できないことを課題に思われています。

伝統×革新をテーマに、ネオ浮世絵風に本社がある横浜の風景を描いた。
50周年を祈念して、50個のパーツで構成されている

こちらはひとつの事例ですが、ここの本社は横浜にあるんですよね。それで、横浜の景色を浮世絵風に表現させていただいたんですけれど、「これも何を表現するか」・「どうやって表現するか」というのも、ここの会社ならではのビジョンやミッションから、社員さん自身が出していただいたものになっています。

これを導入したことで、実際に完成の場にも社員さんに立ち会っていただいたんですけれども、わりとゆるめのコミュニケーションが生まれるというか、「ここに照明が映るとハートに見えるよね」とか、「これ何に見える?」とかっていうものは、Zoomの会議とかではなかなか取れないものなので、そこがアートのある一番の効果かなと思っています。

― また、根岸さんはアフターコロナという新しい時代において、オフィスはFunction(機能)、Safety(安全)、Well-being(幸福)、Engagement(結束)といった多様な役割を担うようになると話されていました。

根岸 今までのオフィスというのは、Function(機能)の部分でハイスペックなパソコンを用意し、長時間働きやすいデスクや椅子を提供することが重視されてきました。今、Safety(安全)の部分が非常に重視されていて、いろんな会社でアクリル板を設置したり、フリーアドレス制にしたり、オフィス内での感染経路もトラッキングできるようなテクノロジーを取り入れたりと、オフィス工事も集中していると聞いています。

2021年半ばくらいから、わざわざオフィスに行くのであれば幸福感、結束感を得られるなどの行く意味が求められるようになり、オフィスがカルチャープレイス化していくのではないでしょうか。通勤することがプレミアムな体験になるという世界観をオフィスデザインの企業の皆さんはつくっていきたいとおっしゃっています。

実は食べ物は帰巣本能をくすぐりますので、オフィスに行けば飲み物や食べ物があって仲間と一緒に空腹を満たせるというのが一番わかりやすいメリットになるのでしょうが、その次にアート的なもの・ビジュアルで結束が得られるというものが非常に重視されているんじゃないのかなと感じています。

吉田 いま、集まることの意味が改めて問われています。SDGsやESG投資を背景に、若手アーティストや日本の工芸作家の作品をオフィスに展示して「日本文化を応援する場」にしようという動きがあります。まさにオフィスをカルチャースペース化することであり、企業の社会価値を象徴する場にすることだと思います。

ノグチミエコ 《 10の13乗m Where are you ? 》等
オフィス用什器に組み込める専用の展示什器 にて展示
古賀崇洋 《頬鎧盃》
コワーキングスペースに日本の工芸作品を展示

一方で、働く場が、自宅やコワーキングスペースであったり、最近ではワーケーションという流れもあり、オフィスがサテライト化、パーソナル化していく視点もあるのではないでしょうか。私は、アートって究極的にはパーソナルなものだと思っています。サテライト化されたオフィスでも、個々人の感性でアートを選択できるようにしたいんです。個々人がアート作品やアーティストの生き方に触れて感性が刺激される。そんな個人が同じカルチャー、ビジョンのもとで集まることで新たな価値が創造される、そんな未来像を描いています。

― 新型コロナウイルスの影響が続くなかで、オフィスは単なるワークスペースではなく、今後は、人々が集まる新たな価値が求められるはずです。

だからこそ、「アート×オフィス」によって生み出されるコミュニケーションに大きな可能性があるのではないでしょうか。ウィズコロナ、アフターコロナという時代のなかで、芸術は分断された人々を再び結びつける方途として注目されつつあるのかもしれません。

WORDS

point 0 marunouchi(ポイント ゼロ マルノウチ)

ダイキン工業株式会社、株式会社オカムラ、ソフトバンク株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、三井物産株式会社、ライオン株式会社が2018年7月30日に共同発表した、空間データの協創プラットフォーム『CRESNECT(クレスネクト)』を活用し「未来のオフィス空間」づくりを目指すプロジェクトのひとつ https://www.point0.work/