B-OWND×四代 田辺竹雲斎がNFTアートを「Art Fair Tokyo 2022」で発表! B-OWND×四代 田辺竹雲斎がNFTアートを「Art Fair Tokyo 2022」で発表!(前編)|今、NFTアートに取り組む理由とは

ARTIST
2022年3月、B-OWNDはNFTアートを「Art Fair Tokyo 2022」にて発表、販売します。
今回は、世界的に活躍する竹工芸のアーティスト・四代 田辺竹雲斎氏とのコラボレーションによって実現。
田辺氏とB-OWNDは、なぜ今NFTアートに取り組むのか、それぞれの背景や思いについて取材しました。
文・取材写真:B-OWND
カバー写真: Yo Ishigami 

PROFILE

四代 田辺竹雲斎

1973年、大阪府生まれ。三代 田辺竹雲斎の次男として生まれる。東京藝術大学 美術学部彫刻科 卒業後、父三代 竹雲斎に師事。代々の伝統技術を受け継ぎながら、竹の大型インスタレーションを海外の美術館などで展開する。2017年、四代 竹雲斎を襲名日本・アメリカ・フランスにて襲名披露展覧会を開催。

 

竹のインスタレーション

《The Gate》メトロポリタン美術館(ニューヨーク・アメリカ)/ 2018年

《CONNECTION –根源–》ショーモン城(ロワール地方・フランス)/ 2019年

《CONNECTION –GODAI–》OMM美術館(エスキシェヒル・トルコ) / 2019年

《CONNECTION》サンフランシスコアジア美術館(アメリカ) /2019年

 

石上賢

1992年、愛知県生まれ。B-OWNDプロデューサー。画家の父、画商の母の元に生まれる。国内芸術家の経済活動の困難さを目の当たりにし、10代からアート作品の販売、大学在学中よりアーティストのプロモーション活動を開始する。これまでに50を超える展覧会の企画に携わる。2019年、アート・工芸×ブロックチェーンのプラットフォーム「B-OWND」を立ち上げる。

 

 Yo Ishigami   

1990年、愛知県生まれ。映像作家。 10代の頃から写真撮影を始め、実写映像、CG制作と段階的に学び、視覚表現を探究する。2020年より、現代の情報化社会の中で静かに自分と向き合う空間を作り出す「山紫水明」のプロジェクトを開始。日本各地でフィールドレコーディングを行い、自然の音、映像、再生装置を組み合わせた作品を発表している。

はじめに

2019年5月よりサービスを開始した、アートとしての工芸作品を販売するオンラインマーケット「B-OWND(ビーオウンド)」。世界的に活躍する竹工芸家・四代 田辺竹雲斎氏は、その当初よりB-OWNDに参画いただいています。 2019年9月には、B-OWNDを運営する株式会社丹青社 本社のクリエイティブミーツにおいて、イベント「四代 田辺竹雲斎×B-OWND『竹によるインスタレーション-Gather -』」を開催しました。

そして2021年9月、丹青社は「⼯芸×空間×テクノロジー」による次代の空間体験価値を創出すべく、四代 田辺竹雲斎氏のエージェントである有限会社夢工房と業務提携契約を締結し、新たな⼯芸体験空間を具現化する共創プロジェクトに取り組んでいます。

今回はその一環として、竹工芸家・四代 田辺竹雲斎氏とのコラボレーションにより制作したNFTアート作品を、3月10日(木)~3月13日(日)に東京国際フォーラムで開催される「Art Fair Tokyo 2022」で販売開始します。

なぜ今NFTアートに取り組むのか、 今回の記事ではその背景や思いについて、 四代 田辺竹雲斎氏とB-OWNDプロデューサー・石上賢が語り合います。

明書に期待される未来

石上 2018年、B-OWNDはアーティストファーストのプラットフォームをつくりたいという思いからスタートしました。

アーティストが作品を制作するには、時間や労力、そしてお金がかかりますが、その作品の対価が支払われるのは、多くの場合一次流通のときだけです。また、作品は長い時間をかけて価値形成されていきますが、たとえアーティストの存命中に価値が高まったとしても、二次流通以降は、なかなかその恩恵を受けることができません。 

はじめB-OWNDは、ECサイトを通じて実物のアート作品を販売し、そこにブロックチェーン証明書をつけることで、すべての作品をトラッキングして、作品の二次流通以降にもアーティストに還元金が支払われるようなシステムの構想をしていました。

田辺 もう3、4年前だったと思いますが、石上さんからはじめてその構想を伺ったときのことはよく覚えています。率直に、とても将来性を感じました。行き詰まりを感じているこの工芸の世界を変えてくれるんじゃないかと、期待に胸が膨らみましたね。

さきほど石上さんがおっしゃっていた還元金モデルもそうですし、証明書がデジタルになることで、写真や動画をそこに載せて引き継げるようになるということが、アーティスト側としてはたいへん画期的なことに感じました。

たとえば、代々竹工芸を引き継いできた「竹雲斎」は私で四代目ですが、初代から三代については、作品を見ることでしか人柄や思想を推し量れません。各作品ごとにある、各時代の苦悩、技術開発などを示す資料などはほとんど残っていないからです。

ですが、ブロックチェーンのシステムは、改ざんされず、消失の恐れもないということですから、このデジタル証明書で写真や動画が管理できれば、確実に後世に残していくことができるでしょう。今まで「箱書」(※1)が担ってきた証明書のような役割が、デジタルに引き継がれることでさらに進化するだろうと、そういった期待感がありました。

作品の未来を共につくる|箱書とブロックチェーンの共通する思想

石上 ありがとうございます。しかしながら、実物にブロックチェーンの証明書をつけると、現状まだ連動が難しいという課題があります。たとえば、B-OWNDで購入いただいた作品が別のオークションで転売されると、情報を追えなくなってしまうんですね。また、工芸の枠組みにある作品は、現代アートと比べると、まだまだ二次流通以降が活発ではなく、流動性が高くないと感じています。

そうなったとき、デジタル上ですべてが完結できれば、作品の情報を追うことがより容易になり、実物の物体がないという点でも流動性が高まるのではないかと予想しています。

つまり、NFTを付けたデジタルアートのほうが、アーティストファーストのプラットフォームをつくりたいというB-OWNDの構想を、より早く実現できるのではないかと考えました。そういった経緯から、B-OWNDは、ある意味必然的にNFTアートへと領域を広げていくことになったのです。

田辺 そうですね。工芸は、なかなか流通がうまくいっていません。こういった現実のなかで、なにかブレークスルーしなければならないと常々感じていましたから、そのアイテムとしてNFTには注目しています。

石上 そして今回、B-OWNDのNFTアート作品として、ぜひ田辺さんとコラボレーションさせていただきたいと考えました。

実物の竹作品とNFTアート作品に共通するコンセプトは「つながり」

石上 その理由は2つあります。

1つは、田辺さんのアーティストとしての理念が「伝統とは挑戦なり」であること。この理念をもとに、工芸の枠組みを超えた新しい活動を、次々に展開されていらっしゃいます。

制作中の竹のインスタレーション作品

石上  今や田辺さんの代名詞ともなっている「竹のインスタレーション」はもちろんのこと、ハーバード大学の建築学部で教鞭をとる貝島佐和子さんとコラボレーションされた作品には新鮮な驚きがありました。

田辺 貝島さんに設計いただいた作品ですね。あれは、貝島佐和子さんがアルゴリズムを使用し、ジオメトリックデザイン(一定の規則性をもった形状を用いたデザイン)で設計いただいたものに基づいて、制作したものです。

石上 2021年の「Art Fair Tokyo」の会場で実物を拝見しましたが、その数式を平面作品としても展示されていらっしゃいました。ジャンルを超えて、最新のテクノロジーと工芸を融合させた作品を制作されていらっしゃいましたので、こういった活動を展開されてきた田辺さんにこそ、ご依頼したいと考えました。

そしてもう1つの理由は、田辺さんご自身のアーティストとしてのコンセプトが、「つながり」であることです。異なる2つのものをつなげる、という点にピンときました。

今回のNFTアートの作品は、実際に田辺さんが作られた実物の作品を、3DCG化した映像作品です。つまりこれは、フィジカルとデジタルという、両極にあるものの統合と言えますよね。さらに付け加えるならば、ブロックチェーン自体が、トランザクションですべてをつなげていくという性質がありますから、そういった意味でもコンセプトに共通点を見いだせて、とても面白いと感じました。

実物の作品画像《五大虚空》
写真提供:夢工房

田辺 石上さんはもちろんご存知だと思いますが、私が制作した実物の竹作品のタイトルは、《五大虚空(ごだいこくう)》といいます。これは、私のアーティストとしての1つの世界観を示す作品でもあり、シリーズとして制作を続けてきました。

五大は、五つの命=地、水、火、風、空を、虚空は、宇宙を表します。その5つの命があって世界が成立しており、それらは「無限」につながっているという思想です。

普通、竹籃というものは、底から編んで、縁で終わる、という決まりがあるのですが、この作品では、終わりも始まりもないように編んでいます。また、水と油のように、2つの相反するものがつながって1つの世界を創造する、というような「表裏一体」というイメージもあり、何度も円を描くようにして編み込む技法を用いています。

石上 まさに「つながり」ですね。ところで、実際、僕からNFTアートの提案をお話させていただいたとき、田辺さんご自身はどう思われましたか?

田辺 非常に魅力的だと感じましたよ。というのも、竹には多様な色彩もないですし、良くも悪くも素材のままなので、なかなか自分のイメージや世界観を伝えきれない、という思いがありました。たとえば絵画であれば、きらきらと輝く表現で「美しさ」を伝えられますが、竹ではそれがとても難しいのです。

そこで、もしCGを使うことができれば、たとえば宇宙まで無限に広がるイメージをつくれたり、作品の質感も自由に変えてくことができます。実物の作品だけでは伝えることが難しいテーマを、物理的な制約がないデジタルならではの特長を生かして、より深く、わかりやすく伝えることができるのではと感じました。自分の作品が進化していくようで、とてもワクワクしましたね。

また、伝統を受け継ぐという視点でも、ひとつの分岐点になると感じました。

四代目の私からデジタルを使いだすというのは、長い時間の縦軸で、大きな分岐点になるかもしれません。この先の五代目、六代目が振り返ったときに、四代目で工芸とデジタルの融合がはじまったのか、という視点で見るとさらに面白そうです。

石上 なるほど、伝統を受け継いできた田辺さんならではの視点ですね。 

時空を超える|今回のNFTアート作品のみどころ

ChikuunsaiIV✕B-OWND NFTアート作品《INFINITY》short ver.

石上 今回の作品は、田辺さんの実物の作品を「フォトグラメトリー」(※2)という手法を用いて3DCG化した映像作品です。つまり、現実の作品とバーチャルを組み合わせた作品ということになります。今回の映像作品プランを考えたとき、この組み合わせで生まれる面白い表現はなんだろうと考えました。

はじめの提案では、たとえば、ミクロからマクロへ、もしくは自然から都市へといった、「行き来」のようなものは、現実には不可能なこととして、面白い切り口になりそうだと、田辺さんにお伝えしましたね。そして、いろいろと議論を重ねていくなかで、「現実空間」と「仮想空間」の「行き来」がいいだろうと、方向性が定まっていきました。

田辺 そうですね。「行き来」というところでいうと、竹はもともと2つの異なる世界をつなぐような、特別な意味を持つものです。「かぐや姫」も、月の世界の姫君が、この世に降り立ったのは、竹の中でした。

私の実物の作品《五大虚空》には、トンネルのような穴があります。その穴を通じて、無限の世界へとつながっていくようなイメージを、ぜひデジタルで表現してほしいと伝えました。今回の作品を手掛けていらっしゃる映像作家のYo Ishigamiさんは、もう長いお付き合いになりますが、今回改めて数時間にわたって私のコンセプトをヒアリングしてくださいました。おかげさまで、自分がこう描きたい、というものをかなり忠実に表現していただいています。

CG制作:Yo Ishigami

石上 映像は、美しい竹林のシーンから始まります。それが徐々に、グラデーションを保ちながら変化していきます。背景(環境)と作品(個体)を同様に変化させることができるのは、デジタル空間ならではです。背景と作品が一体化となって、それらすべてで作品の世界観を表現します。

田辺 カメラの視点も次々と変化し、《五大虚空》の周囲を一周したところで、今度は穴のなかへと入っていきます。そして、その先には「無限」の宇宙が広がっています。

CG制作:Yo Ishigami

田辺 この映像作品の面白いポイントは、はじめは現実世界の竹林からスタートをして、次は完全な抽象世界へと移動することですね。あの世とこの世が、竹によってつながり、しかもそれが何度もループするので、そういった意味でも「無限」です。時間的にも空間的にも広がりがある表現ですね。現実の物理的な制約から解放されるのが、デジタル表現の利点だと思います。

石上 時間的・空間的という意味では、もう1つできることがありそうです。今までは、展示会場に行って、実際に作品を目の当たりにした人にしか、アーティストの世界観や熱量が伝わり辛かったように思います。ですが、こういった「世界観を表す」作品によって、実物の作品とは実際の距離がありながらも、世界観や熱量をありありと感じることができるようになるかもしれません。

田辺 まさに作品が、空間や時間を超えていくような感じがします。

工芸の可能性をもっと広げていくために

石上 それでも誤解をしないでほしいのは、やはりB-OWNDでは、実物の作品あってのNFTアート作品、というスタンスであることです。

工芸は、もっと多くの人に見知ってもらい、欲しいと感じてもらわなくてはならない状況にあります。ですが現実問題として、実物の作品だけでは、なかなか広がりを持たせるのが難しいとも感じています。そう考えたとき、デジタルは、圧倒的に広がりがあります。

田辺 そうですね。それは、私がインスタレーションをはじめたときの問題意識と、きっと同じです。

当時は本当に工芸に対して限界を感じていました。というのも、工芸というのは日本の枠組みなんです。ヨーロッパでは、キリスト教美術を基準に成り立っているので、日本独特の工芸というものを世界にそのまま持って行ってもなかなか通用しません。どうやったらここを抜け出せるか、考えた先に始めたのがインスタレーションでした。そしてありがたいことに、それがきっかけとなって、現在では世界中からオファーを頂けるようになりました。

石上 まさに「挑戦」によって、アーティストとしての道を切り拓かれたのですね。

田辺 私自身、現在では「工芸」という枠組みを超え、「アート」として作品を発信したいと考えています。以前は、竹の良さを伝えたいからと、いわば竹が主役でした。ですが今、竹は私自身のアイデンティティを示すものとして、私はひとりのアーティストとして作品を制作しています。それでもまだ、海外では東洋美術として紹介されることが多く、現代アートとして認知を広げるのは難しいところです。だからこそ、今NFTをやるのも、とても大事なことだと考えています。

石上 僕自身も、工芸をアートの方向としてプレゼンテーションしたいというのが大前提にあります。現代アートの中でも、東洋思想といったバックグラウンドもあり、彼らがまねできない技術もある、というよいポジションを探っていきたいですね。

田辺 そうですね。工芸家である以上、竹や工芸という思想が根本にあります。その思想がありながら現代表現をするということが、世界の市場に出ていけるということなのかなと考えています。工芸に寄りすぎても世界ではわかりにくいし、現代アートに寄りすぎてもその私のアイデンティティが薄れていきますからね。 

石上 NFTアートも根本の考え方は同じで、誰でも作れる作品ではなく、現実に存在しているものを3DCG化することで、そもそもまねができない、まねしても意味がないものが作れる気がしています。B-OWNDが作るデジタルアートを考えたときに、現実と紐づいていることが重要になってくると思います。

田辺 アーティストのアイデンティティ、手仕事としての技術、デジタルの世界で仮想と現実を行き来できる。そういうものを工芸が手に入れられれば、もっと世界の人たちに訴えかける力が強まると感じていますし、それこそが今、私がB-OWNDとやるべき仕事だと思っています。将来が本当に楽しみです。

石上 本日お話をさせていただくなかで、やはり工芸って面白いな、すごく可能性を秘めているなと改めて感じました。田辺さんには、ぜひこれからも一緒に盛り上げていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

田辺 ありがとうございました。

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■今回のNFTアート作品について

「Art Fair Tokyo 2022」で発表、販売する作品は以下の2点です。

1.「INFINITY」

四代 田辺竹雲斎氏の作品性を踏襲し、現代社会においてより境界が融解しつつあるリアル世界とデジタル世界の「つながり」と「表裏一体」を表現の軸に据えたCG映像のNFT作品です。「無限」をコンセプトとし、四代 田辺竹雲斎氏のリアル作品「つながり」を物理的な制約のないデジタル空間に展開することで、従来の限界を超えた新たな表現の可能性に挑戦します。 (エディション数:10)

2.「循環-RECIRCULATION-」
ポストカードのようにグッズ感覚で手にいれていただける、会場に展示されるインスタレーション「循環-RECIRCULATION-」と「WORMHOLE」を撮影した画像データのNFT作品です。一定期間で解体されてしまうインスタレーションをNFTアート作品としてより多くの人に販売することで、鑑賞者は体験の記憶を作品として所有でき、さらにはインスタレーションで使用した竹ひごの一部を購入者特典として後日入手することが出来ます。(エディション数:200)


 

■「Art Fair Tokyo 2022」概要

会期:2022年3月10日(木)~13日(日) ※10日(木)は招待制

時間:11:00~19:00 ※13日(日)は11:00~16:00

会場:東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー

出展ブース:ホールE N042/ロビーギャラリー L007 夢工房ブース

公式ウェブサイト:https://artfairtokyo.com

主催:一般社団法人アート東京/株式会社テレビ東京/株式会社BSテレビ東京/株式会社電通

※本展に関する最新情報、詳細、注意事項は「Art Fair Tokyo 2022」公式ウェブサイトにて必ずご確認ください。

WORDS

※1

箱書

陶磁器や書画、茶道具といった作品を収納する箱に、作者や歴代の所有者たちが銘や来歴、署名や花押などを記すこと。箱本体はもちろん付属品の真田紐なども中身に応じて整えられており、箱(とその付属品)を見れば中身が分かるともいわれている。とくに茶道の世界では馴染みの深く、箱そのものも鑑賞の対象となる。

 

※2

フォトグラメトリー

被写体をあらゆる角度から撮影し、それらをコンピューター上で解析・統合して3DCGモデルを作る技法のこと。