作品の未来を共につくる|箱書とブロックチェーンの共通する思想

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朝日焼十六世松林豊斎さんにインタビューしていたとき、思わぬ一言をもらった。
「ブロックチェーンって箱書と似ていますよね」
今日のコラムは、この一言からはじまっている。
ブロックチェーンと箱書、その共通する思想を追ってみたい。
文:ふるみれい
写真:木村雄司
写真提供:朝日焼十六世松林豊斎

箱書とは

箱書とは、陶磁器や書画、茶道具といった作品を収納する箱に、作者や歴代の所有者たちが銘や来歴、署名や花押などを記すことをいいます。箱本体はもちろん付属品の真田紐なども中身に応じて整えられていて、箱(とその付属品)を見れば中身が分かるともいわれます。茶道の世界では馴染みの深いもので、箱そのものも鑑賞の対象となります。

朝日焼十五世松林豊斎の箱書
写真提供:朝日焼十六世松林豊斎

そもそも箱とは、その内容物を保護するものですから、箱自体が鑑賞の対象とは不思議に思われるかもしれません。しかし、箱書には、それをつくった作者はもとより、それをつくらせた人、それを見出して茶席で使いはじめた人、歴代の所有者が、自分の記録とともに作品への賞賛など、作品への思いを墨書等で箱に託すという機能があります。箱書の鑑賞は、それ自体の美しさとともに、長い年月の間にその作品に関わった人々と、思いを共有する場であり、それらが時空を超えて共鳴するその瞬間を味わうものであるともいえます。

作品を入れた箱が、さらに別の箱に入れられていることもあります。たとえば千少庵作の茶杓は、作者である少庵がつくった筒(共筒)に入れられていますが、さらに宗旦(千家三代)、如心斎(表千家七代)、了々斎(表千家九代)、碌々斎(表千家十一代)と4つの箱がそれを守っています。茶杓自体はもちろんのこと、歴代の箱自体に価値を認めている証でしょう。

こうした箱に守られた作品は、箱書によってその真価を証明され、箱書があることで一層価値が高まるという側面があります。箱書は、自分が世を去った後にも長く生き続けるであろうその作品に対して、作家や歴代の所有者、コレクターといった、作品に関わった人々が自らの思いを託していく、いわばリレーのようなものなのです。

箱書とブロックチェーンの類似性

朝日焼十六世松林豊斎の箱書

この「思いを未来につなぐ」という箱書の思想ですが、B-OWNDが用いているブロックチェーンによるデジタル証明書との間に共通する考え方があります。

ブロックチェーンでは、その作品を生み出したアーティストが誰かを証明できるため、その真贋を明らかにすることができます。箱書が作品の真価を保証しているのとよく似ています。

また、その作品の所有権が次の人に移る場合でも、それまでどのような人々が所有していて、いま現在誰が所有者なのかをたどることも可能です。これも箱書がもつ機能に類似しています。その作品の来歴の証明、つまり、アート作品のトレーサビリティが確立できるのです。

作品の確かさや来歴を証明し、確かなものを未来につなぎたいという思い。伝統的な箱書と最先端のブロックチェーンに、時代を超えて流れる共通点があるというのは、とても興味深いことです。

ブロックチェーンには箱書を超えて、さらに優れた点があります。

ひとつは、ブロックチェーンを使えばアーティストにメリットを生み出すことができるという点です。従来、一度購入されてしまえば、その後その作品にどれだけ価値がつこうと、何度転売されようと、それを世に送り出したアーティストへの経済的なフィードバックは困難でした。

しかし、ブロックチェーンによる証明書なら、転売されるたびにアーティストに取引代金の一部を還元できるよう、ルールを組み込むことが可能です。

長い目で見たとき、このしくみを構築することは、経済的な面からアーティストをバックアップすることになり、芸術の振興に大きな役割を果たすことになるでしょう。箱書ではできなかった機能がブロックチェーンの利用で達成できる可能性が開かれています。

B-OWND 
証明書の世界(ブロックチェーンと証明書)
https://b-ownd.com/about_artcontract/

アートの未来をつくる

朝日焼十六世松林豊斎《酒呑 月白釉》
作品の販売ページはこちら

そしてもうひとつの優れた点は、情報の改ざんが極めて難しく、所有者の履歴が半永久的に残せるということです。冒頭に紹介した、朝日焼十六世松林豊斎さんは、こんなことをおっしゃっています。

「持つ人がいないとそれ(作品)は残っていきません。持つ人だけが、(作品を)次の世代に残す権利を持っているんです。作品というものは、自分がつくったものではあるんですけど、自分だけがつくっているわけではない、つまり、とても社会的な存在だと思います。」

ここで語られているのは、作品はアーティストだけがつくるものではない、という作品の社会性についてです。作品は、人の生を超えて生き続けます。それを生み出したアーティストよりも、所有者よりも長い命をもち得ます。長く世に存在している作品には必然的に、歴代の所有者、コレクターがいて、彼らの「作品を選び取る」という連続した行為が介在するのです。

アーティストと所有者の双方が、ともに作品の未来をつくり上げていく。そこには、自分の愛した作品には、将来にわたってたしかに存在していてほしい、そんな思いが現れています。作品に対する愛情を未来に託すという思想は、箱書もブロックチェーンも同じですが、この思想をより確かなものにするのがブロックチェーンだといえるでしょう。

その技術は、アーティストの名はもちろん、所有者、コレクターの名を歴史に刻みます。

これまでも、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ二世、メディチ家といった王侯貴族や大富豪などは、パトロン、コレクターとして歴史に名を残していますが、実際には、無数の無名の人々もまた、作品の継承に関わってきたことでしょう。こうしたアートをめぐる人々の行為を記録できるのが、ブロックチェーンなのです。

コレクターにとってそれは、作家とつながるツールにもなります。作家とともに、作品の成長に参加している確かな手応え。それは、わたしたちと作品との関わり方をもっと多彩で深いものにしてくれるに違いありません。

アートの未来は、もう、始まっています。

【参考文献】

小田榮一『茶道具の箱と箱書』 淡交社 2003年

※茶道の世界の箱と箱書をめぐる奥深い世界が、豊富な画像とともに紹介されています。箱書に興味を持たれた方におすすめです。