Clubhouseとは?アート業界にもたらす3つのインパクト

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音声型SNSのClubhouse(クラブハウス)が日本国内で急速に広がっています。
アーティストも積極的にイベントを企画しており、盛り上がりを見せています。
果たして、会話をコミュニケーションの基調とするClubhouseは、
アート業界にどのようなインパクトを引き起こす可能性があるのでしょうか? 

この記事では、Clubhouseがもたらすアート業界へのインパクトについて考察しています。
文:B-OWND

Clubhouseとは?

Clubhouseとは、ユーザー同士がリアルタイムで会話を楽しむ音声型のSNSです。利用者は幅広いジャンルの人たちとトピックを自由に設定して話し合うことができます。また、自分の興味・関心のあるトークルームに参加して、会話を聞くだけでも問題ありません。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、家で過ごすのが当たり前になりつつあるなかで、デジタル空間で気軽に「だれかと話せる環境」を作り出すサービスは、時流に適ったものだと言えるでしょう。

また、「完全招待制」というマーケティング手法が「だれかに選ばれる」というポジティブな感覚をマス化させたり、会話がアーカイブされない手軽さを設定したりするなどして、短期間のうちに普及させることに成功しています。

なお、Clubhouseはスタンフォード大学出身のポール・デイビソンとローハン・セスが創業したAlpha Exploration Co.によって運営されています。

アート業界にもたらす3つのインパクト

さて、音声型SNSのClubhouseはアート業界に対して、どのようなインパクトを持っているのでしょうか? ここでは大きく3つのインパクトについて詳述していきます。

【Clubhouseがもたらすアート業界へのインパクト】

  • その1 アーティストを身近に感じる機会が生まれる
  • その2 アーティストの支援体制をグローバル化できる
  • その3 制作過程を共有して効果的なプロモーションを図る

ここでは、それぞれの項目について解説していきます。

その1 アーティストを身近に感じる機会が生まれる

第1のインパクトとして、アーティストを身近に感じる機会が生まれるといったことが挙げられます。

アート業界に携わる人たちにとって、アーティストと交流するのはごく自然なことだと言えます。けれども、多くの人たちからすれば、自分の交友関係にアーティストが存在するのは珍しいことのはずです。

そもそも、日本の風景として、晴れの日に画家が街で絵を描いたり、音楽家が公園でヴァイオリンを奏でたりするようなシーンはほとんど見ることはできません。加えて、美術館で作品を鑑賞することはあっても、本人と関わる機会はめったにないと言ってよいでしょう。

しかし、Clubhouseのような幅広いトピックでコミュニケーションが行われるデジタル空間では、だれもがアーティストと関わる可能性があります。実際に、現代美術や工芸に携わるアーティストのトークルームに参加したユーザーが質問をぶつけるといったことも起きています。

アーティストも一人の人間にほかなりません。だれしもが抱えている未来への不安や葛藤を抱えながら必死に生きている人たちもたくさんいます。何気ない会話のなかで、そうした「人間らしさ」が垣間見えたとき、薄らと自分を覆っていた固定観念が融解して、「自分と同じなんだ」と身近に感じる人たちもいるかもしれません。

そして、双方向的な関係が生まれやすいからこそ、アートならではの精神的価値に惹かれるだけではなく、生活者としての真摯さに触れて応援したくなったという「ファン」が増える可能性もあるのではないでしょうか。

その2 アーティストの支援体制をグローバル化できる

第2のインパクトとして、国境を超えたコミュニケーションが創出されやすくなることで、アーティストの支援体制をグローバル化できる可能性があります。

Clubhouseのユーザーは103ヵ国にいると言われています。言葉の壁を超えれば、世界中の人たちとリアルタイムで会話を楽しめるわけです。

今後、Facebookなどの主要SNSと同様に、地球規模でユーザーが増えていくのであれば、だれしもがアート作品の情報を世界に向けて発信しやすくなります。TwitterやInstagramとも連携可能ので、そこから作品を見てもらって購買につなげることもできるでしょう。

したがって、国内のファン層が薄いアーティストだったとしても、ある国からは熱烈に支援されるという現象を起こせるかもしれないのです。

また、まだ実験段階ではありますが、Clubhouseには「クラブ」というコミュニティ機能があります。もし、そこにサブスクリプション型の会費システムが付与された場合、アーティストの経済的基盤を支援するファンクラブをグローバルな舞台で作ることができます。

Clubhouseに関して「マネタイズをどうするのか?」という声が聞こえてきますが、今後、世界規模でコミュニティを動かせる便利な機能が実装された場合、Zoomやメッセンジャーなど複数のツールと一緒に活用して、地球上のどこにいても、世界中の人たちとムーブメントを起せるようになるのではないかと思います。

その3 制作過程を共有して効果的なプロモーションを図る

第3のインパクトとして、制作過程を共有することで、アート作品のプロモーションをより効果的に実施できる可能性があります。

これは近年、ビジネスの領域でよく用いられる事業開発戦略のひとつでもあります。

すなわち、ユーザーとして想定される人たちをサービス設計に巻き込んでフィードバックを得ることで、実態に即した改善を、売り出す前からハイテンポで実行しやすくなります。そして、巻き込んだ人たちの満足度が高くなれば、彼ら自身が最初の顧客として定着する可能性もあるので一石二鳥なのです。

この考え方をアート分野に応用する場合は、買い手の欲しいものを作るという意味ではなく、あくまでも作品が生まれていく物語に参加することによって、アーティストや作品に対する人々の認知や好意が育まれていくといった話になるかと思います。

ただ、文章を書いたり、ライブ動画を配信したりするなどで制作過程を共有するのは、非常に手間のかかることだと言わざるを得ません。しかし、会話であれば今すぐにでも始められます。その手軽さが過程を共有する敷居を下げるのではないかと思います。

また、制作過程のなかでアーティストの葛藤や思考に触れる機会が多いほど、その流れと合わせて完成した作品を鑑賞したときの感動も大きくなるはずです。

本来的に言語で表現しづらい価値を帯びた抽象度の高い作品だったとしても、シーンを共有していたからこそ伝わるものもあるのでないでしょうか。

これからが楽しみなサービス

Clubhouseは始まったばかりのサービスです。そのため、現時点では、まだ良し悪しを評価することはできないでしょう。とはいえ、成熟していたはずのSNS市場に「会話」という新しい可能性を提示したことは刮目すべきところだと思います。

2021年2月17日現在、Alpha Exploration Co.は1000億円以上の企業価値がついており、IPOに向けてサービスを拡充していくはずです。それらをアート市場を盛り上げる手段として、上手に活用することで従来では考えられなかったようなコミュニケーションが生まれていくかもしれません。