B-OWND×四代 田辺竹雲斎がNFTアートを「Art Fair Tokyo 2022」で発表! B-OWND×四代 田辺竹雲斎がNFTアートを「Art Fair Tokyo 2022」で発表!(後編) スタートバーン太田圭亮氏に聞く「NFTの現在と未来」
これに際し、現在のNFTに関するさまざまな疑問を、
専門家であるスタートバーン株式会社執行役員の太田圭亮氏に伺います。
NFTの現状や課題、そして未来はどのようになっていくと予想されるのでしょうか。
カバー写真: Yo Ishigami
PROFILE
太田圭亮
スタートバーン株式会社 執行役員 事業開発部長 兼 広報/PR室管掌 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。卒業後はスイスの建築設計事務所Herzog & de Meuronで建築家として、美術館やファッションブランドショップの設計に従事。2015年に経営戦略コンサルタントに転身し、ベイン・アンド・カンパニーの東京およびドバイ支社で大手企業の経営支援に携わる。2019年よりスタートバーンに参画し、事業開発および広報領域を管掌する。
石上賢
1992年、愛知県生まれ。B-OWNDプロデューサー。画家の父、画商の母の元に生まれる。国内芸術家の経済活動の困難さを目の当たりにし、10代からアート作品の販売、大学在学中よりアーティストのプロモーション活動を開始する。これまでに50を超える展覧会の企画に携わる。2019年、アート・工芸×ブロックチェーンのプラットフォーム「B-OWND」を立ち上げる。
はじめに
2019年5月よりサービスを開始した、アートとしての工芸作品を販売するオンラインマーケット「B-OWND(ビーオウンド)」 は、アートの価値をブロックチェーンで支える「スタートバーン株式会社」と連携し、ECサイトで販売した全ての作品にブロックチェーン証明書を発行してきました。
そして2022年3月、B-OWNDはNFTアート作品を「Art Fair Tokyo 2022」にて発表、販売します。 今回のNFTアート作品は、世界的に活躍する竹工芸のアーティスト・四代 田辺竹雲斎氏とのコラボレーションによって実現。記事の前編では、なぜ今NFTアートに取り組むのか、B-OWND・田辺氏それぞれの背景や思いについて取材しました。
後編では、現在のNFTに関するさまざまな疑問を、専門家であるスタートバーン株式会社執行役員の太田圭亮氏に伺います。NFTの現状や課題、そして未来はどのようになっていくと予想されるのでしょうか。
そもそもNFTとはなにか
石上 2021年、NFTは爆発的に流行しました。2020年の市場は約350億円でしたが、2021年には、約2.5兆円ほどになったといわれています。しかしながら、まだまだ一般的には実態が掴み辛いものではないでしょうか。結局、NFTとは何なのか、まずはそこから太田さんにお伺いできればと思います。
太田 そうですね。よく僕たちは、その性質をうまく表現するために、「デジタル証明書」や「ブロックチェーン証明書」という言葉で説明しています。
現実の世界で取り扱われているアート作品などの証明書と同様に、NFTはデジタルデータの唯一性・希少性も担保できるしくみということです。
「copyright」という言葉がありますが、デジタルデータというものは基本的にはコピーや複製が簡単にできてしまうものです。それが便利だからこそ、さまざまなサービスが迅速に広がっていったのだと思います。しかし、便利さがある一方で、モノとしての希少性や価値を見出すのが難しいという課題がありました。
そのため、デジタルアーティストのみなさんは、たとえばUSBなどのモノにデータを落とし、「1つしかないもの」として販売したりと、これまで作品の販売方法に苦心されてきたのです。
しかし現在はNFTによって、デジタルデータの唯一性を担保できるようになりました。これは大きな変化です。
石上 わかりやすい説明ですね。しかし一方で、たとえデジタルデータが唯一無二であったとしても、コピーブロックが掛かっているわけではないから、コピー自体はできてしまう、ということですよね。
太田 その通りです。ですがそれは、実物の作品でも同じことが言えます。版画であれば、理論上いくらでも刷ることができますよね。ですが、たとえば作者がエディションを「限定100枚」として、かつそこに証明書を付ければ、それは「作品」として認められます。反対に、他の誰かが勝手に複製をしても、それは作品とは見なされませんよね。
ブロックチェーンとNFTの違いとは?
石上 確かにそうですね。そこで、もうひとつお聞きしたいことがあります。B-OWNDは、2019年よりスタートバーン株式会社と連携し、実物の作品にブロックチェーン証明書を発行してきました。実際のところ、実物の作品についたブロックチェーン証明書とデジタル作品についたブロックチェーン証明書、すなわちNFTには、どのような違いがあるのでしょうか?
太田 実は、モノとしては全く同じです。実物と紐づけているか、デジタル上のモノと紐づけているかの違いです。
実物の作品に対しては、その作品とNFTを紐づけることで新しい形の証明書を提供してきました。というのも、それまで証明書は、多くが箱書きや紙などでしたから、複製や改ざん、紛失のおそれがあったのです。それらのリスクを、ブロックチェーンすなわち、NFTの技術を使うことで抑え、証明書としての機能を補強できる、というところに価値があります。
デジタル作品に対しては、NFTをデジタルデータと紐づけています。そのデジタルデータが現在どこに保存されているのかという情報と、たしかにNFTと一対一であるということを証明しています。
Startrailの特徴は、アート業界の課題解決のために生まれた仕組みである
石上 今回、B-OWNDで販売するNFTアート作品は、スタートバーンさんが提供しているStartrail(スタートレール、※1)を利用することになります。数あるNFTのなかで、Startrailの特徴は、どういったところにあるのでしょうか。
太田 まず大前提としては、アートの世界の課題を中長期に解決するためのソリューションとして生まれてきたことです。弊社代表の施井泰平(※2)が美術家ということもあり、クリエイティブなものの価値や権利を守りたいという思想がサービスの起源としてあること、そしてそれらが、プロダクトのさまざまな箇所に反映されていることです。
工芸もそうだと思いますが、作品は100年、200年と受け継がれるなかで価値が形成されていきます。そこで我々は、「将来、その作品の価値や評価に関わる情報とはなんだろうか」といった視点を模索しながらStartrailを設計・実装をしています。
一般的なNFTは、所有者Aさんから所有者Bさんに作品が移転されたという取引情報が記録されるだけです。しかもそれは、すべてブロックチェーン上のコードベースの情報ですから、一般の皆さんにとっては、正直何が何だか、よくわからない状態だと思います。
それに対して、Startrailでは、まずはどこの事業者を経由して所有者が移転したかというところから情報の記載が始まります。たとえば、B-OWNDさんのECサイトで作品が販売されたという事実が、テキスト情報として記録されるということです。一方で所有者の氏名などは個人情報にあたりますので、ブロックチェーン上に公開されることはありません。さらにStartrailでは、どこどこのギャラリーや美術館で展示された、というような情報も記録可能です。このような展示会歴も、中長期的には作品価値に大きく関わる大事な情報です。現在開発中ですが、今後は修復歴や鑑定歴といったより多様な情報も載せられるようにしようと考えています。
このように、100年、200年と生きるアート作品の価値が、将来どういった点で判定されるのか、それらを考えぬいて仕組みに落とし込んでいるのが、Startrailの特徴といえると思います。
現在のNFTにおける課題とは?
石上 そうなったとき、具体的にスタートバーンのNFTがほかのプラットフォームに関して互換性を持った状態にできるかどうか、という問題も出てきますね。
太田 あるべき姿は、どこで販売されても、情報や規約が引き継がれることだと思います。現状は、プラットフォームに対して個別対応している部分もありますが、ゆくゆくはどのプラットフォームで取引されても情報や規約がきちんと引き継がれるような仕組みにしようと、改善を続けています。
業界も流れが速く、市場も急速に成長しています。そのなかで、標準規格をつくろうという動きも多く見受けられるので、それらを注視しつつ、最適な解を見つけていきたいですね。
石上 なるほど、急拡大したからこその課題があるのですね。ほかに、現在のNFTが抱える課題にはどんなものがあるでしょうか。
太田 そうですね。まだスタンダードが確立されていないなかで盛り上がりを見せている業界なので、いろいろと未成熟さはありますが、一番大きなところは、情報の真正性でしょうか。たしかに、ブロックチェーン技術は、インプットされた情報を正しく継承することを得意としていますが、最初の情報が間違っていると、それがそのままブロックチェーン上で継承されてしまいます。ですので、ブロックチェーン上にインプットする情報の確からしさは、各サービスが担保しなければならないのですが、現状は必ずしもそうなってはいません。最近では、自身が著作権を持たないものにNFTを発行してしまうという「贋作NFT」が問題視されており、アメリカを中心として訴訟問題にまで発展しています。
この課題に対してStartrailでは、NFTの発行者に対してKYC(顧客確認手続き)を実施させていただいています。そうすることで「誰がこのNFTを発行したのか」「だれがこのNFTに情報を付加したのか」をユーザーが簡単に判断できるようにしています。たとえば、B-OWNDさんの作品についているブロックチェーン証明書には、確かにB-OWNDさんが発行したということや、B-OWNDさんがどのようなサービスなのかという情報が記録されています。こうすることで、データの真正性が担保されると考えています。
よくStartrailは、真贋を判定するサービスなのかと誤解されることがありますが、そうではなく、あくまでも「誰が証明書を発行したのか」「誰が情報を追記したのか」という事実をNFTに記録することで、100年200年先でもユーザーに正しい情報を伝えることを使命としています。
NFTは、バブルなのか?
石上 ところで、太田さんご自身は、NFTの爆発的な盛り上がりについてはどうお考えですか?
太田 5年後くらいには来るだろうと思ってはいましたが、予想より早かった、というのが本音です。そして、バブルといわれてるのも、実は部分的なものだと言えます。
たしかに価格の部分では、現在法外な値段がついていますから、そういった要素はありますね。というのも、世界中の仮想通貨の時価総額が、世界中のUSドルの時価総額を超えたと言われています。つまりは、アメリカ一国と同等かそれ以上の資産がブロックチェーンの世界で生まれているということです。しかしながら、仮想通貨の使い道は、現状法定通貨ほど多くはありません。たとえば、近所のスーパーで、ビットコインを使って支払いはできないですよね。
ですが、仮想通貨を法定通貨に換金してしまうと手数料と税金がかかってしまうので、みんな換金はしたくないのです。
現実世界でも金余りが叫ばれていますが、仮想通貨はその比ではありません。こういう状況のなかでNFTが出てきたので、仮想通貨を使って支払いができるコンテンツとして仮想通貨保有者を中心として人気が出た、ということが理由のひとつとしてはあるように感じています。
石上 なるほど、そういった背景があったのですね。
太田 はい。ですので、マーケットの動きとしては異常値的なものが散見されますが、NFTやブロックチェーン自体は世界のインフラとなりうる確かな技術だと思います。
考えているのは、現実の世界における「紙」のようなイメージですね。どこでもかしこでも使われて、ほぼタダのような紙と、作品のキャンバスに使われるような高級紙のように、NFTも色分けされていくと思います。
現在はその一歩として、みんなが試行錯誤している時代なのではないでしょうか。
B-OWNDとスタートバーンが目指していく未来
石上 NFTは現在、新しいカルチャーとして台頭してきていると思いますが、もともとスタートバーンさんでは、トラディショナルなアートの業界で流通している作品の価値や、アーティストの権利を守るための手段としてブロックチェーンを使ってきたということで、そのスタンスがずっと以前から変わらないということですね。
太田 そうです。目指すのは、デジタルやフィジカルに関係なく、あらゆるアートやクリエイティブ作品の価値や、その作家の権利が守られていく世の中です。現状、NFTの機能は作品の所有者であることの証明を実現するまでですが、将来的には著作権を中心としたより幅広い作品の権利を守っていけたらいいなと考えています。B-OWNDさんが構想しているアーティストのみなさまへの還元金もそのうちの1つだと思います。
石上 NFTはまだまだできることが無数にあると思いますが、現在は資産価値や投機的な価値にばかりフォーカスされているようにも思います。スタートバーンさんたちインフラレイヤー側だけでなく、僕たちサービスレイヤー側がもっと体験価値のような部分を含めて開発していくことも、今後の課題になりそうです。
太田 いいですね、石上さん、ぜひやってください。使う側も使われる側も、みんなが幸せになれるよう、これからも協力させていただければと思っています。
>>前編はこちら<<
■今回のNFTアート作品について
B-OWNDを運営する株式会社丹青社は「⼯芸×空間×テクノロジー」による次代の空間体験価値を創出すべく、2021年9月に四代 田辺竹雲斎氏のエージェントである有限会社夢工房と業務提携契約を締結し、新たな⼯芸体験空間を具現化する共創プロジェクトに取り組んでいます。本取り組みもその一環として、四代 田辺竹雲斎氏の作品性を軸にデジタルならではの表現を用いて新たな価値創造に挑戦しました。
「Art Fair Tokyo 2022」で発表・販売する作品は以下の2点です。
1.「INFINITY」
四代 田辺竹雲斎氏の作品性を踏襲し、現代社会においてより境界が融解しつつあるリアル世界とデジタル世界の「つながり」と「表裏一体」を表現の軸に据えたCG映像のNFT作品です。「無限」をコンセプトとし、四代 田辺竹雲斎氏のリアル作品「つながり」を物理的な制約のないデジタル空間に展開することで、従来の限界を超えた新たな表現の可能性に挑戦します。 (エディション数:10)
2.「循環-RECIRCULATION-」
ポストカードのようにグッズ感覚で手にいれていただける、会場に展示されるインスタレーション「循環-RECIRCULATION-」と「WORMHOLE」を撮影した画像データのNFT作品です。一定期間で解体されてしまうインスタレーションをNFTアート作品としてより多くの人に販売することで、鑑賞者は体験の記憶を作品として所有でき、さらにはインスタレーションで使用した竹ひごの一部を購入者特典として後日入手することが出来ます。(エディション数:200)
※今回の「Art Fair Tokyo 2022」で発表される 四代 田辺竹雲斎氏のリアル作品、NFTアート作品いずれに対しても、スタートバーン株式会社のStartrailのNFTが発行されます。
■「Art Fair Tokyo 2022」概要
会期:2022年3月10日(木)~13日(日) ※10日(木)は招待制
時間:11:00~19:00 ※13日(日)は11:00~16:00
会場:東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー
出展ブース:ホールE N042/ロビーギャラリー L007 夢工房ブース
公式ウェブサイト:https://artfairtokyo.com
主催:一般社団法人アート東京/株式会社テレビ東京/株式会社BSテレビ東京/株式会社電通
※本展に関する最新情報、詳細、注意事項は「Art Fair Tokyo 2022」公式ウェブサイトにて必ずご確認ください。
WORDS
※1
Startrail(スタートレール)
アート作品の信頼性と真正性の担保、ひいては価値継承を支えることを目指した、持続可能なブロックチェーンインフラ。展示・売買・蒐集・査定・保存・継承など様々な領域のステイクホルダーが存在する、アート業界固有のエコシステムを支える。Startrailには、作品の来歴はもちろん、展示やオークションの履歴など、作品に関するさまざまな情報を永続的に記録することができる。また、二次流通時の取引や利用について、アーティスト自身が事前に独自の作品規約を設定することが可能。
※2
施井泰平
1977年生まれ。スタートバーン株式会社 代表取締役 最高経営責任者 (CEO)。
少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作、現在もギャラリーや美術館で展示を重ねる。2006年よりスタートバーンを構想、その後日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。2020年に株式会社アートビート代表取締役就任。講演やトークイベントにも多数登壇。
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