イベント 作品とコレクションにおける、テクノロジー活用の可能性とは

BUSINESS
テクノロジーを活用することで、アートとしての工芸をより盛り上げていこうと考えているB-OWND。
普段は、インターネットを通じてお客さまに作品をお届けしているほか、
ウェブマガジンにて、アートやテクノロジーに関する様々な情報を発信しています。
またウェブ上だけでなく、実際に作品に触れていただける機会をつくり、
作家の活動や作品の魅力を広く知っていただくための活動も行っています。

B-OWNDは次の展開として、みんなでアートの価値を考え、自由に交流することのできるプラットフォームの構築を考えています。
これからアートの分野でテクノロジーを活用していくことには、
アーティスト・美術の専門家・コレクターそれぞれにとって、どのような利点があるのでしょうか。
今回は、9月13日(金)に行われた、四代 田辺竹雲斎氏トークイベントより、
コレクションとテクノロジーについて語られた部分を中心にお伝えします。

 
構成・写真:B-OWND

PROFILE

四代 田辺竹雲斎

竹工芸家。1973年 大阪府堺市に三代田辺竹雲斎の次男として生まれる。東京藝術大学 美術学部彫刻科 卒業後、父三代竹雲斎に師事。代々の伝統技術を受け継ぎながら、竹の大型インスタレーションを海外の美術館などで展開する。2017年 四代竹雲斎を襲名  日本・アメリカ・フランスにて襲名披露展覧会を開催。  竹のインスタレーション-GATE- メトロポリタン美術館(ニューヨーク・アメリカ) / 2018 年 竹のインスタレーション-根源- ショーモン城(ロワール地方・フランス) / 2019年 竹のインスタレーション-Godai- OMM美術館(エスキシェヒル・トルコ) / 竹のインスタレーション-CONNECTION- サンフランシスコアジア美術館(アメリカ)

 

秋元 雄史

東京藝術大学大学美術館館長/練馬区立美術館館長。1955年東京都生まれ。東京芸術大学美術学部絵画科卒業後、1991年よりベネッセアートサイト直島のアートプロジェクトに関わる。2004年より地中美術館館長、ベネッセアートサイト直島・アーティスティック ディレクターを兼務。2007年~2017年3月まで金沢21世紀美術館館長。「金沢アートプラットホーム2008」、「金沢・世界工芸トリエンナーレ」、「工芸未来派」、「井上有一展」等を開催。2013年4月~2017年3月まで秋田公立美術大学客員教授。2013年4月~2015年3月まで東京藝術大学客員教授。2015年より東京藝術大学大学美術館館長・教授。また現在、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員を務める。

 

武田 秀樹

株式会社FRONTEO 取締役 CTO 行動情報科学研究所 所長。90年代後半のインターネット黎明期に、Webシステムのディレクター・エンジニアとしてキャリアをスタート。フロントエンドからインフラまで幅広いシステム構築に従事。2002年からは複数のベンチャー企業で自然言語処理(NLP)を応用したデータマイニング技術の開発に従事しながら、その成果の事業化に取り組む。2009年FRONTEO(当時UBIC)に入社。NLPを軸とする人工知能関連技術の研究・開発を主導し、人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」を開発。米国のリーガル分野で実績を上げ、ビジネスインテリジェンスをはじめとする他分野へと適用範囲を拡大し、次々と製品化を実現している。なお、アートコレクターとして、若手作家の作品を中心に現代美術の収集を行っている。収集の基準は日本の伝統的な美意識が現代や世界と交錯していること。マルチモーダル・同時間性を強く感じること。

はじめに

登壇者は4名。まずはアーティスト、四代 田辺竹雲斎氏です。田辺氏は、テクノロジーと伝統工芸の技法を融合した作品や巨大なインスタレーションの制作など、革新的な活動で知られる竹工芸家としてご活躍されています。

二人目の登壇者は、東京藝術大学大学美術館館長の秋元雄史氏。「アート化する新しい工芸」という分野を見出し、精力的に紹介されてきた美術の専門家でいらっしゃいます。

三人目の登壇者・武田秀樹氏は、株式会社FRONTEO取締役CTOとして、AIの分野で活躍されるスペシャリストでいらっしゃると同時に、幅広い現代アートのコレクターでもいらっしゃいます。

この3名に、モデレーターの吉田清一郎(株式会社丹青社 事業開発統括部長/B-OWNDエグゼクティブディレクター)を加え、アーティスト・美術の専門家・コレクターそれぞれの立場から、アートにおけるテクノロジー活用の可能性についてお話をお聞きしました。

作品について解説する四代 田辺竹雲斎氏

イベントの冒頭では、田辺氏自ら《竹によるインスタレーション-Gather-》の作品コンセプトについてご説明いただきました。田辺氏は、竹のすばらしさを広く伝えたいという思いから、インスタレーション作品の制作を始めて今年で8年目を迎えられます。これまで世界21か国のアート空間で展示を行ってきましたが、今回は初めてのオフィス空間です。会場の「クリエイティブミーツ」が、毎日様々なミーティングが行われるクリエイティブな場であると意識され、人々が交流することで作品が完成するというテーマを掲げられました。

田辺氏は、世界中にコレクターをもつアーティストでいらっしゃいますが、今回のインスタレーション作品のように、コレクションが難しい作品も制作されています。このあたりから、そもそもコレクションの意義とはなんなのか、また醍醐味はなにかという話題へと展開していきます。

コレクションの意義、醍醐味について

吉田 コレクターでいらっしゃる武田さんにお伺いしたいと思います。武田さんはAIのテクノロジーの分野では非常に有名な方なのですが、現代アートのコレクターでもいらっしゃいますので、まずはどんな作品をコレクションされているのかをお話いただけますか。

株式会社FRONTEO 取締役 CTO 行動情報科学研究所 所長  武田秀樹氏

武田 コレクションの分野はバラバラなのですが、現代アートを中心に、工芸、日本画、写真、メディアアートなどを所有しています。ただし関心としては一貫したものがあり、日本の伝統的な美が、現代、そして世界と出会ったとき、どういう表現をとるのかということです。その関心に重なったものを蒐集しています。

吉田 ご自身の現在のビジネスや価値観と重ね合わせた視点がおありということでしょうか。

武田 それはあると思いますね。今私が手掛けているビジネス自体が、AIを使って情報を発見する、特に自然言語処理という言葉を扱う分野で、訴訟に関連するデータ・証拠を見つけるというものです。たとえば日本の企業が海外で事業を展開するときに、訴訟に巻き込まれたりすることがあると、どうしても海外のレギュレーションの中で戦うことになり、分が悪い勝負をしなくてはいけなくなります。そんな時に、テクノロジーを使って参考資料などを探し、対等に戦える状況をいかに作り出すかというビジネスです。だから、作品を蒐集する際に、日本と海外の接点という価値観はあると思います。

吉田 次に、秋元先生にお聞きしたいのですが、公立のミュージアムと個人のコレクションは、それぞれどのような意義があるのでしょうか。

東京藝術大学大学美術館館長/練馬区立美術館館長  秋元雄史氏

秋元 それぞれ蒐集の方針や性質が大きく異なりますが、まず公立のミュージアムの場合は、歴史的に作品をどう記述するかとか、美術的な広い観点、ある意味では客観的な観点が重視されていますね。一方で、プライベートコレクションは、大なり小なり個人の好みが反映したものといっていいと思いますが、たとえばコレクターの哲学とか、ものの見方、考え方が作品を通して透けて見えるのではないでしょうか。作品の力を借りて自らも表現したい、自分の世界観を投影したいという思いがあるのではないかと思います。

吉田 プライベートコレクターたちは、どのように作品蒐集していくのが理想的とお考えですか。

秋元 先ほどの武田さんの蒐め方がすばらしいなぁと思ったのは、やはり自分の向き合っている世界と、アートに対する思いみたいなものが、どこかでオーバーラップしていると思えたところです。もちろん、作品のクオリティーなどの良し悪しについては、われわれ専門家が語りますが、それはそれでひとつ参考として、最後は自分にとってしっくり来るかとか、すごく大切なものになるかどうかがポイントになると思うのです。それに、たとえば田辺さんの竹のインスタレーションのように新しいことをやって、それをいいと思って理解するコレクター、おもしろいと感じるコレクターがいるわけですね。創造の場は、そのように表現する人とそれを理解する人の両者がいて成り立つわけですから、コレクターはアーティストと同じようにクリエイティブなんですよ。コレクターってただの作品の購入者ではなくて、アーティストを理解する人であり、一緒に創造の場を作り出す、つまりはクリエイションする人なんですよね。

吉田 日常的に作品を蒐集されている武田さんは、今のお話を聞いていかがですか。

武田 コレクターのモチベーションになっているのは、友人たちと作品を分け合う瞬間があって、こういう作品だよということを、ちゃんとお互いの価値観で関心をもって話をするときで、それこそがコレクションの醍醐味だと感じています。田辺さんの作品だって、このインスタレーションに使われていた竹が、以前はトルコの展示で使われたものだということ(※1)は、作品を見ただけではわからないですよね。けれども本当はそこにストーリーがあって、自分が価値を見出しているっていう話を共有することによって価値が生まれるのだと思います。僕は、美術作品が価値の媒体としての役割を持つのはすごく大きいと思いますね。そんなとき、B-OWNDの仕組みもそうだと思いますが、どこで作品が展示されていたのかなど、情報がちゃんと客観的に記述されることが、ストーリーテリングをする上でも非常に助かるというのはあります。

 信用あるプラットフォームの構築に必要なものとは

吉田 B-OWNDは、アーティスト・コレクター・専門家のコミュニケーションの場をつくろうという構想があるのですが、こういった場が信頼を構築していく上で、どのようにテクノロジーを活用していけばよいか、それぞれのご意見を伺えますか。

武田 たとえば、「インターネット」の普及において非常に重要であったのは、開かれたネットワークで、しかも安価であったということです。じゃあ「ブロックチェーン」(※2)って何かというと、開かれた信用保証のシステムであるということ。だから今後、「安さ」がどれだけ実現できるかが、世の中に受け入れられる信用システムになってくかどうかという点で重要なところだと思います。信用保証の部分って、本来とてもコストがかかっているところですから、テクノロジーを活用しない手はないと思いますよ。コレクターとしても、活用していければ楽になるのではないかと思います。

吉田 以前秋元先生は、マスメディア以外にも信頼につながるような場所が必要とおっしゃっていたと思いますが、直接作品との触れ合いがない場合に、テクノロジーを活用して、いかに安全に発信できたり、コレクションを管理していけるか、B-OWNDの取り組みを含めて、考えをお聞かせ願えますか。

秋元 ひとつは、どうやって価値形成していく場をみんなでつくっていくのかだと思います。これまでは限られた専門家が美術的な価値を決めていくものだったと思いますし、その良さもあるのですが、もう少しプロセスのところで、様々な意見がやりとりできる公開性のある場所があってもいいわけで、いろいろな人が関わる中で価値形成されていってもいいんじゃないかと思いますね。意見交換が活発化するには、たとえばネットの中のコミュニケーションの深まりをどのようにつくりだすかといった問題がありますが、使用するメディアも重要で、それによってコミュニケーションの質も内容も変わってしまうでしょうね。どういう対話の場をつくっていくか、そこは一工夫が必要だと思う。それに、専門家が入るとなると、美術史的な用語が並ぶようになるかもしれない。そうしたら、一般のコレクターたちは太刀打ちできない。いきなり言説が難しくなるでしょう。うまく運用するには、そういうテクニカルな部分もでてくるでしょうね。それらを乗り越えて、どのようにみなさんが自由に言葉を交わしやすい場をつくるのが重要になってくると思いますよ。

武田 まったくその通りだと思います。一方で、自分が作品を購入するとき、ギャラリストの解説って非常に参考になるんですよね。購入するときは、専門の方の美術史的、技術的、マテリアル的な観点からひも解いてくれる情報を重視しますし、二次流通を考えた際にも、そういった情報が載っていくと、ほかの鑑賞者がどう見えているのかと合わせて、すごい価値になると思うんですよね。

吉田 ストーリーが見えてくるという感じでしょうかね。田辺さんは、今のやり取りとB-OWNDの取組について、アーティストの立場としてどのように感じられましたか。

竹工芸家 四代 田辺竹雲斎氏

田辺 わたしもかれこれ15年くらいアメリカで展示を行っていますが、15年前というと、やっぱり作品は実物を見ないと売れなかったんです。だからコレクターがギャラリーまで来て、作品を見てから購入すると。ですが、今年夏にアメリカで個展をしたときには、9割はEカタログ(※3)で購入という形になりました。ですから、かなり時代が進んでいると思うんです。けれど、それが成立しているのは、ギャラリーの信用度があるからです。コレクターは、ギャラリーの哲学、目利き、スキルなどの信用をもとに購入されているのです。だから、B-OWNDが今後どれだけ、コレクターや専門家そしてアーティストの信頼を得ていくかですね。いくらインターネットが普及しても、やはり人と人とのつながりというものがミックスしないと成功しないんじゃないのかなと思うんです。

アートとテクノロジーの融合、その可能性とは

吉田 今、さらりと大きな課題をいただいたように思いますが(笑)。我々も信頼あるコミュニケーションの場が必要と感じています。これからテクノロジーを利用していくというとき、ひとつの具体例がブロックチェーンなんですけれども、武田さんはいまAIをご専門にされている観点から、AIは今後、信頼という面も含めて、美術の分野でどんな役割を果たしていく可能性があると思われますか。

武田 いろんな観点があると思います。信用というところでいうと、ブロックチェーンをこれから広めていくとしたとき、どこがコストを担保していくのか、スマートコントラクト(※4)自体をどうするのか、その先の物理的な流通をどうするのかなど、まだまだ埋まっていない部分が多いと思うんですね。あとは、作品の特徴をどのようにとらえていくのかという分析的な部分でも使えるところもあると思います。ここでいう分析とは、個別のアーティストやアーティストグループに固有の共通した特徴を把握しておき、現代の作家の中で共通の特徴を持つ作家を見つけたり、自分がコレクションしている作品を画像解析して、共通の特徴を見出し、コレクションの際のインサイトにするというイメージです。AIというのは、基本的に特徴を自動的にどううまく捉えるのかという技術ですので、それが逆につくる側でも、人間が今まで気が付いていなかった特徴のアート作品の制作を可能にすると思いますし、いろんな展開が考えられます。

吉田 みなさんが一番関心があるのは、物理的な流通において、AIをどう活用できるか、という点かもしれませんね。

武田 たとえば、AIの画像認識で物理的な作品の特徴を、一種のハッシュのようなものとしてブロックチェーン上に登録しておくとします。作品が届いた後に専門のアプリケーションで作品を画像スキャンする事で、真贋の判定ができるみたいな、作品を外側から認証していくためのシステムとしてAIが働くという可能性が考えられますね。

吉田 なるほど。田辺さんは、テクノロジーを活用した作品も制作されていますが、作家として、どのような作品を構想していらっしゃいますか。

田辺 今ちょうど、日本橋の髙島屋さんに、ハーバード大学のテクノロジーの専門家の方といっしょに伝統工芸にテクノロジーを使ったらどうなるのだろうとチャレンジした作品が展示されています。あとは、トルコで出会ったデジタル映像作家の方がすごく面白くって、今後の展開としてVRのシステムとインスタレーションをコラボレーションして、なにか新しいものを工芸に取り込むことができないかなと模索している最中です。

秋元 新しい展開ができればいいなと思っていますが、体験型のアートって、私の場合、結局実物を見たほうがいいじゃないっていう感覚が常に付きまとってしまいます。竹雲斎さんは今模索中とのことですが、可能性ってどういうところにあると思いますか。

田辺 もちろん、実物を見てほしいというのが一番です。その反面、今世界がこれだけテクノロジーが進む中で、今の時代、テクノロジーを融合させていかないと、伝統は廃れていくとも思っています。今、ちょっとやりたいと思っているのは、実際に見ることが難しい場所にある、希少な種類の竹林をバーチャルで体感していただきたいということです。しかも、ただの実景映像ではなくって、アート的な映像にして、四季の移り変わりを感じられたり、小川の音や風に揺れる笹音がきこえたり、自然をアート的に体感しながらインスタレーションを見ることができるような作品を考えています。

秋元 実際に目の前でインスタレーションを見ている体験と、バーチャルな体験とは共存できそうな気がしますか?

田辺 できると思いますよ。ただ難しいことではありますね。今は自然の場所がどんどん失われていますし、テクノロジーの力を借りて、説明的ではなく感覚的な体験として実現できれば、インスタレーションの幅も広がるかなと思っています。

吉田 時空間を超えていくような体験ができる可能性など、まだまだたくさんの展開が予想でき、今後がとても楽しみですね。  

吉田 さて、今日はまさしくアーティスト・美術の専門家・コレクターをお招きしてのトークイベントの開催でしたが、田辺さんの作品についてのお話から話が広がり、コレクションする意義について、そしていかに信頼できるプラットフォームを構築していくか、さらにはテクノロジーとアートの可能性についてまで話が展開し、大変充実した内容となりました。B-OWNDでは、これからも様々な機会を設けながら、アートとしての工芸の価値を高めていきたいと思います。みなさま本日はありがとうございました。(了)

四代 田辺竹雲斎氏のインスタレーション解体に関する記事は、以下のリンクよりご覧いただけます。

インスタレーション解体 記事・映像

WORDS

※1 四代 田辺竹雲斎氏のインスタレーションで使われる竹は、何度も再利用され、世界中の展示会場を巡っている。

 

※2 ブロックチェーンとは、上書き不可、自動修復可能などさまざまな利点を持つ、ネットワーク共有型のデータベース。

 

※3 Eカタログとは、ウェブで閲覧可能な電子カタログのこと。

 

※4 スマートコントラクトとは、人がいないところで、契約内容を自動的に履行する仕組み。たとえば自動販売機などもスマートコントラクトの例として挙げられている。ブロックチェーン上では、契約を成立させるのに必要な条件が記された取引内容がブロックチェーン上に記録されており、条件が満たされた場合に自動的に成立することを指す。