デザイン思考とは?アート思考との違いと実践のプロセスを解説

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「アート思考」と似て非なるものとして「デザイン思考」が挙げられます。
両者ともにビジネスの世界で問題解決の新しいパラダイムとして注目されていますが、
具体的にどういった思考術なのでしょうか?
この記事では、「デザイン思考とは?」を解説したうえで、
アート思考との違いと実践のプロセスを紹介していきます。
文:B-OWND

デザイン思考とは?

学説的な定義は明確になってはいませんが、デザイン思考とは、言語化されていない潜在的なニーズを共感的に読み解き、顧客の問題をクリエイティブに解決する知覚全般のことを意味しています。

「デザイン思考」という言葉それ自体は、建築家ピーター・ロウによって提唱された概念と言われています。彼は、著書『デザインの思考過程』(鹿島出版社)において、実際の事例を取り上げながら、言語化が困難な創造の過程を明らかにする試みを行ったのです。

その後、アメリカ・シリコンバレーを拠点とするデザイン会社・IDEO(アイディオ)がデザイン思考を世界的に普及させる活動を開始しました。トップデザイナーと呼ばれる優秀な人材がどのように結果を出し続けているのか。その思考プロセスを顧みながら、それらを体系的に整理しようと試みたのです。

そして、2000年代初頭に、一連のパラダイムが「デザイン思考」と広く呼ばれるようになりました。

アート思考との違いは?

デザイン思考と混同されやすい概念として、「アート思考」という言葉があります。両者には具体的にどのような違いがあるのでしょうか? ここでは、アーティストの制作過程に触れながら、相違点を簡単に説明していきます。

現代のアーティストは、自らの視点から社会やものごとを解釈して、そこに意味を与えながら作品を制作しています。すなわち、自分で問いを立てて、「自分なりの答え」をアートとして表現しているのです。言うまでもなく、アート作品には正解はありません。むしろ、これまで存在しなかった新しい価値を見出し、それに形を与えていく自立的な営みこそが現代的なアートだと言ってよいでしょう。

その一方で、デザイン思考はあくまでも顧客の問題解決が中心となっているため、自分の価値観をベースに思考を展開するアート思考とは出発点が根本的に異なっています。

なお、アート思考の詳細を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

デザイン思考が注目される背景

とはいえ、なぜ、デザイン思考が注目されるようになったのでしょうか?

その答えのひとつとして、論理的思考の限界が挙げられます。一般的に、ロジカルシンキングは、人々や物事を取り巻く現状やデータを分析して問題の原因を特定し、それを克服するための解決策を事例や理屈から導き出します。数学の問題のように、答えが決まっている場合、そこに至るまでの筋道を立てることができれば、だれでも同じような結果を出すことができます。例えば、PCの画面がうまく映らない場合、専門家がマニュアルに従ってディスプレイの状態を調べると、修理内容が明らかになるわけですが、人によって対処方法に違いが出るわけではありません。

しかしながら、人間の心理や価値観が反映する問題は杓子定規に解決できないことばかりです。とりわけ、現代社会が「VUCAの時代」と形容されているように、先行きが不透明であるがゆえに、データに映し出されていない非言語的な情報や社会関係資本と呼ばれる人間関係の力学を捉える感性が重視される場合が多々あります。

そのなかで、当事者とのコミュニケーションを度外視して、論理的に整理された「答え」を提供するだけでは、いくら筋道が通っていたとしても、顧客に受け入れられないわけです。このような背景から、共感的に問題を理解し、解決策を創造するデザイン思考に注目が集まっていると言えます。

デザイン思考の実践に必要な5つのプロセス

それでは、具体的にデザイン思考を実践するうえで重視されている5つのプロセスを紹介していきます。

【デザイン思考の実践に必要な5つのプロセス】

  • ステップ1 顧客が語る情報を共感的に理解する
  • ステップ2 潜在的なニーズを定義する
  • ステップ3 複数の解決策を考案する
  • ステップ4 試作として解決策を実行する
  • ステップ5 フィードバックを得ながらブラッシュアップさせる

ステップ1 顧客が語る情報を共感的に理解する

第1に、顧客のニーズを共感的に理解することが求められます。ここでは、一般論や社会的評価などの先入観から相手が感覚的に捉えているものを否定しないように注意が必要です。インタビューなどのコミュニケーションを通して、顧客が捉えているものを素直に受容することがデザイン思考の出発点となります。

ステップ2 潜在的なニーズを定義する

第2に、共感的に理解された顧客のニーズに秘められる潜在的な価値を定義します。例えば、相手が「事業を譲渡したい」と口で言ってたとしても、「本当は事業を黒字化して、企業の強みにしたい」と心の底では思っているかもしれない。表層的な言葉を論理的に理解するのではなく、心情の機微を捉えて、「顧客が真に望んでいること」を気持ちの部分からも探っていく必要があるのです。

ステップ3 複数の解決策を考案する

第3に、潜在的なニーズを実現するための戦略を考案します。最初から完璧なものを作ろうとするのではなく、顧客に適した解決策を生み出すために、複数のアイディアをブレーンストーミング的に列挙するのがポイントです。

ステップ4 試作として解決策を実行する

第4に、アイディアをトライ&エラーで実行していきます。「まず、やってみる」というアプローチでプロトタイプとなる解決策をいくつか提示しながら、関係者の反応を記録して、顧客が納得するベスト・プラクティスを探ることが試作段階の目的と言えるでしょう。

ステップ5 フィードバックを得ながらブラッシュアップさせる

第5に、顧客の同意を得て出来上がった解決策を本格的に実行します。ここでは、顧客から定期的にフィードバックをもらい、施策をブラッシュアップさせていきます。このプロセスが繰り返されるたびに、ソリューションは顧客にフィットしたものになるでしょう。これがデザイン思考を実践する枠組みの例となります。

ビジネスの視点を活用し、アートを盛り上げるときに大切なこと

アートをビジネスの領域で扱う際に、事業者側にはアーティストの精神性を共感的に読み解く素養が求められます。作品に込められる想いは多様ですが、そのどれもがアーティストの繊細な感性によって表現されています。

それを無視した短期的な利益追求は、アーティストの世界観を壊し、作品を単なるモノと化してしまいかねません。それはアーティストの生き様を傷つけるだけではなく、作品の市場価値をも低下させることになるでしょう。

B-OWNDでも、アート作品に込められる精神性を伝えるために、アーティストとの対話を大切にしながら、コンセプト文書や映像を制作しています。

アーティストの世界観を壊さずに、文章・画像・動画を組み合わせながら、その価値を人びとに伝わるものとして表現する。これは決して、最初から完璧な状態で仕上げられるわけではありません。ニュアンスの微調整を繰り返し、アーティスト本人が納得できるものになって成り立つものです。

その意味では、アートとは馴染みが無さそうな「デザイン思考」ですが、その過程で強調される「共感」に基づくコミュニケーションがあってこそ、アートとビジネスがお互いを犠牲にせずに交わることができるのではないでしょうか。

参考文献

  • 佐宗邦威『世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業』 日経BP 日本経済新聞出版本部 2020年
  • ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変えるイノベーションを導く新しい考え方 アップデート版 』(千葉敏夫訳) 三松堂株式会社 2019年
  • 中野明『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』 株式会社 学研プラス 2015年