アート思考とは?デザイン思考との違いと注目される理由を解説

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近年、「アート思考」という言葉が、現代社会の多様な問題を解決するための糸口として、注目を浴びています。
このコラムでは、「アート思考」の意味と注目されている理由について解説します。
文:B-OWND

1.アート思考とは?

実は現時点において、「アート思考」には、学説的に明確な定義はありません。ただ、それぞれの文献などを整理すると、アート思考とは、「アーティストの作品を制作する過程に伴う着眼点や問題意識、それらを発展させていくための思考方法」と言えるでしょう。

現代のアーティストは、自らの視点から社会やものごとを解釈して、そこに意味を与えながら作品を制作しています。すなわち、自分で「問い」を立てながら、それに対する「自分なりの答え」をアート作品として表現しているのです。

アート作品には、社会共通の「論理的な正解」はありません。むしろ、これまで存在しなかった新しい価値を見出し、それに形に与えていく自立的な営みが現代的なアートと言ってよいでしょう。

こうした一連のプロセスで用いられる知覚を「アート思考」と総称しています。

2.デザイン思考との違い

一方、アート思考と似たような言葉に「デザイン思考」という概念があります。一般的に、デザイン思考とは、他者の課題を共感的に捉えて解決する営みであると理解されています。

例えば、デザイナーはパンフレットの制作を委託された際に、クライアントのイメージを理解して、相手が納得する成果物を制作します。あくまでも、依頼者のニーズが前提として存在している以上、デザインの仕事は相手の意思を無視できません。

これを踏まえると、アート思考とデザイン思考の違いは、ものごとを考えるときの出発点にあると言えます。すなわち、アート思考が「自分から」問題を提起するものであることに対して、デザイン思考は「他者から」与えられた目的を達成することを重視しているのです。

3. なぜビジネスシーンで注目されているのか

それではなぜ、今「アート思考」が注目されているのでしょうか。

その答えのひとつとして、アート思考が「VUCAの時代」を生き抜く知恵になるのではないかという期待が高まっていることを挙げられます。

VUCA(ブーカ)とは、「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」 「Complexity=複雑性」 「Ambiguity=曖昧性」の4つの頭文字をとったものです。

あらゆるものが絶えず変化するがゆえに、その変動を予測できない。そして、さまざまな要素が互いに関わり合って存在しているがために、その全体像を掴み取れない。これがVUCAの時代です。

テクノロジー発展の加速、紛争などの社会情勢、そして全世界が直面している新型コロナウイルスへの対応など、過去に類例を見ない技術革新や社会問題に対して、既存のデータを分析して導かれた答えだけでは太刀打ちできない行き詰まりが様々な分野で浮上しています。

そこで重要となってくるのが、これら従来の方法に加えて、人間の感性によって新たな課題を発見し、自らの答えを導き出す力なのです。
「ArtScouter」開発責任者の根岸さんは、「アート思考」について、次のように述べています。

「私の解釈ではこの「アート思考」って、知覚の話なんですよね、パーセプションです。

たとえば、同じ知識量、同じ経済紙を読んで、同じ経験値を積んできたのに、「アウトプットが違う」のは、同じ情報を見たときに、どういう発想を出せるのか、何を面白いと思えるのか、そこらへんの意味を見出す力、つまり、「センスメイキング」の力が違うんだと思います。(中略)アート作品を観察して自分なりの意味を見出すこと、また、見出したものを言語化して誰かに説明して共感を広めることというふたつの意味で「センスメイキング」の力が育まれています。」

同じものを見たときに、何を感じ、何を見つけられるのか。「アート思考」は、ビジネスにおいても活かされる視点といえるでしょう。

4.実際のアーティストはどんな発想の転換をしている?

では、実際の現代アーティストたちが、どのように常識を捉え、自らの問題として発展させたのか、作品と合わせて、その発想・コンセプトをご紹介したいと思います。

新たなモチーフに挑戦する博多人形師・中村弘峰

中村弘峰《 礼砲 ( れいほう )》
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中村弘峰氏は、明治時代から続く、博多人形師の4代目です。伝統と謙虚に向き合いながらも、新たなモチーフを取り入れることに挑戦しています。そのひとつとして知られるのが、アスリートシリーズです。 古来より、人々は人形に様々な「祈り」そして「願い」を込めてきました。たとえば古典的な五月人形に込められた「憧れ」を、今という時代に体現させるのなら、その英雄像は何になるのか。その答えが、現代のヒーローとしてのアスリートたちだったのです。このように中村氏は、人々の祈りを宿すという人形の役割はそのままに、現代人が共感するような新たなテーマを取り入れた人形づくりをしています。

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「反わび・さび」を掲げる陶芸家・古賀崇洋

古賀崇洋《 SPIKY COMPLEX BL 》
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陶芸家として九州を拠点に活動する古賀崇洋氏は、戦国武将の変わり兜をモチーフとした《頬鎧盃》など、ユニークな酒器を多数制作するアーティスです。彼の作品の中でも人気のSPYKYシリーズは、器に無数のスタッズが付いたもので、きらびやかな色彩と相まって強い存在感があります。このシリーズのコンセプトは、400年以上前、日本の美意識に一石を投じた千利休への敬意に端を発します。それは、「新たな美意識を創造する」という高い意識のもと、あえて「反わび・さび」を掲げるという、逆転の発想。利休が用いた真っ黒な茶碗とは反対に、存在感ある派手な作品を作り続けているのです。

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「見るための器」を作り続ける陶芸家・桝本佳子

B-OWND 桝本佳子
桝本佳子《ヒマワリ/黄瀬戸瓶》
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同じく陶芸家として活躍する桝本佳子氏は、幼少期の茶道教室での「しつらえ」の体験から、器が「使用するもの」としての役割だけではなく、「見るもの」としての役割があると気が付きます。

そこで、難解と思われがちな現代アートにおいて、親しみのある「器」の形を利用します。なぜならば、それは「わかりやすさ」につながるから。多くの人に、作品を見ることを拒否せずに、もっと純粋に「見ること」を楽しんでほしいという思いを、工芸の強みを活かした発想で体現しているのです。

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現代アートは、洗練されたコンセプトと、多様な素材・表現との組み合わせがキーです。あらためてアート思考という視点で作品をみたとき、「かっこいい」「きれいだ」という目の前のモノへの感想とともに、「どういった思考プロセスによって出来上がった作品なのか」をより重視するようになるのではないでしょうか。

そして、アートを鑑賞することで鍛えられた着眼点や思考法は、日常にもきっとなんらかの変化をもたらしてくれるはずです。

「アート思考」についてもっと知りたい人へ|書籍の紹介

今回の記事を書くにあたって、参考にした文献はこちらです。より詳細に学びたい方は参考にしてください。