アートとしての工芸×空間デザイン Artをもっと身近に|陶芸家・市川透×空間デザイナー・池田正樹の新たな挑戦

丹青社は「Artをもっと身近に」をコンセプトに掲げて、陶芸家・市川透さんと空間デザイナー・池田正樹さんがアートとインテリア、そして空間を融合させる新しい挑戦を行いました。

B-OWNDの責任者・吉田清一郎が二人を引き合わせたことで生まれた化学反応は、アートとインテリアの境界を曖昧なものにしながら、アートを美術館やギャラリーなどの非日常的な空間から解放し、インテリアとして今まで以上に日常的に楽しんでいただく空間に展開できる可能性を示唆しています。

本記事では、プロジェクトの背景が語られたトークセッション「アートとしての工芸×空間デザイン〜伝統工芸、アート、空間デザインの融合が生み出す新たな可能性」のトピックを抜粋して解説しています。(トークセッション モデレーター:株式会社JDN 山崎泰)
文章・構成 森本恭平
写真 石上洋

PROFILE

市川透(陶芸家)

1973年、東京都出身。2011年、陶芸家・隠崎隆一氏に師事し、備前焼の技法や自由な発想の造形感覚を学び、2015年に岡山県にて独立。2016年の初個展からこれまで備前焼の概念を覆す作品を多数発表してきた。熱い血が流れるような赤。スタイリッシュでメタリ ックな黒や金銀の光彩。その圧倒的な存在感から響いてくるのは、さながら〝自由への咆哮〟である。国内外のギャラリーや百貨店にて個展を開催、また多数のアートフェアにも作品を出品している。

 

池田正樹

株式会社丹青社 デザインセンター カルチャー&コミュニケーションデザイン局 プリンシパルクリエイティブディレクター ショールームやイベントなど企業プロモーションスペースや博物館のみならず、博覧会・パビリオンなど世界的なイベントを数多く手掛ける。インテリアのみならず建築にまで及ぶ幅広い知識を活用し、様々なソリューションを提供します。常に本質は何かを探求する心でクライアントの要望以上のものに応える姿勢で仕事に向き合う。

 

市村徳久・写真家

愛知県名古屋市生まれ 大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、スタジオアシスタント、フォトグラファーアシスタントなどを経てフォトグラファーとして独立。その後、上海戯劇学院に留学した後、上海にて自身のスタジオを立ち上げる。その後NewYorkP.IArtCenterにて留学活動後、LENというクレジットでも制作を開始。現在は東京をベースにワールドワイドに活躍中。

アートがインテリアを介して空間と融合する

アートがインテリアとして昇華する。これは、空間が完成した後にアートを配置するものでもなければ、空間をデザインする段階からアートを選定しておくのでもない全く新しいアプローチです。これについて、トークセッションでは次のように説明されていました。

池田 「アートをプログラムした空間はどうなのかな」というところに思いを馳せたんですね。空間の中にアートがあるのではなくって、アートを組み込んだ日常的に楽しめるインテリアとして空間全体での表現ができないのかなと……。

こうした着想を実現するために、市川さんはインテリアの素材と作品の「つながり」について熟考されたといいます。

市川  普段は、自分の思うように内面から湧き上がるイメージや想いを表に出す。それがアートとしての僕の作品で自分の個性を全面に表現するという展開をしてきたのですが、今回はそれとは全く真逆の世界。「元々ある建築素材に僕の作品をどう合わせていくのか」をよく考えました。それには、その素材と僕の作品とのつながりを大事にしました。例えば、ドットタイルにしても、ひし形のタイルにしても、線と線とのつながりを得るには、やっぱり、その素材にある程度、カタチを合わせていかければいけないっていうのを感じました。

不自由の中に自由を見つける

インテリアで使われる既製の素材は通常、工業製品であることが多く、サイズが厳密に決まっています。これは本来、アートの自由自在な表現活動とは対極にあるといってもよいかもしれません。

規則性と自在性。果たして、インテリアとアートの間に存在する緊張感は、どのように緩和されていったのでしょうか?これに関して、池田さんは次のように語られていました。

丹青社 B-OWND

池田  市川さんと話したときに、「ちょっと不自由になってもらいますが、いいですか?」と伝えました。「不自由」というのは、今までは内面から溢れる想いをかたちにするべく作品をつくり続けてきた市川さんが、今回、僕たちが提示する規格のなかにハマらなければいけない。けれども、「与えられるフィールドのなかで、思いっきり羽ばたいてください」というような話をさせていただいたんです。「ちょっと、困るな……」という反応がくるのかと思ったのですが、「不自由の中に自由を見つけてみます」という凄くカッコいい言葉を頂いたんですよ。そのとき、このプロジェクトは絶対に成功するなという感覚を持ちましたね。

モノという物質的な空間に制約が設けられていたとしても、ココロという精神的な次元に限界はない。「不自由の中に自由を見つけてみます」という市川さんの言葉は、有限に見える世界に「無限の広がり」を見出す事。つまり、「アートを創作する者の精神のあり方次第なのだ」ということを物語っているのではないでしょうか。

未曾有の困難を経験する今日において、八方塞がりの状況を打開する一手はどこから生まれるのか。市川さんのチャレンジ精神には、その答えの一端を垣間見られるような気がします。

アートがオフィス空間にもたらす可能性

新型コロナウィルスの感染拡大で「在宅ワーク」が常態化しつつあります。そのなかで、「オフィスの見直し」や「サテライト化」を検討する企業も少なくありません。

オンラインツールを使えば直接会わなくても、業務上必要なコミュニケーションが取れることが確認されつつある今、物理的な空間を共有する価値が改めて問い直され始めているといってもよいでしょう。

こうした情勢にあって、B-OWNDではオンラインならではの利点を活かして、人々が物理的距離を超えてアート作品と一緒に交流する 「Stay at Home with ART」という 機会を生み出してきました。

『 Stay at Home with ART』オンライン飲み会
アーティストとコレクターが、酒器という共通の作品を介して交流を図る場を設けた 。

こうした取り組みに加えて、吉田さんはオフィス空間に焦点を当てたB-OWNDの新たな展望について次のように語られています。

B-OWND 丹青社

吉田  丹青社が参画 している会員型コワーキングスペース『point 0 marunouchi』(※注釈)において、オフィスにアート作品を取り入れた際に、利用者の行動や心理にどのような変化があるのか、実証実験を行います。センサーや画像認識などのテクノロジーを使ってデータ測定すれば、アートがオフィスにもたらす 効用もわかるし、「 どの場所に置くとより効果的であるか 」というのもわかる。そうすれば、オフィスに限らず、よりいろんな空間にアートを掛け合わせていくことができるのではないか。

たしかに、アート作品がオフィス空間に持ち込まれることで人々のコミュニケーションや心理状態に良い変化が生まれるかもしれません。最新のテクノロジーによって従来では可視化されていなかったアートと調和する空間の効用が、科学的なデータをエビデンスとして実証されるならば、新しいオフィスのあり方を提示することにつながっていくと同時に、リアルの空間でこそ得られる体験価値の向上にもつながると思います。

市川透の魂が宿る空間に感じるコスモロジー

B-OWND 市川透
市村徳久氏(写真家)撮影

トークイベント終了後、丹青社のオフィスに設営された市川さんの作品を拝見しました。 そこには、市川さんが日頃から一緒に活動する市村德久さんが撮影した作品のフォトグラフが展示されていました。

1億画素超という肉眼では捉えられない解像度の花器Liberalism-Ⅱと酒器の写真を目の前にしたとき、それぞれの作品に込められた市川さんの精神性が「一瞬という永遠」のなかに「確かなカタチ」をもって再現されているといった感覚を持ちました。

漆黒の球体に燃えるような橙色がほとばしる花器Liberalism-Ⅱが太陽の光を後ろから浴びているかのような一枚は、果てしない銀河の中で無数の星々と一緒に並んで存在する自由を究極的に追求した様相になっている。まるで宇宙の中で作品と向き合っているような気がしたのです。

そして、B-OWNDでも即日完売したResilienceは、生き物の肉体を想起させるピンク色の装飾が青々とした酒器に施されています。その静止画に投影された作品からは息を吸って吐く「呼吸」と心臓の鼓動がドクンドクンと鳴って今にも動き出しそうな生態的なダイナミズムを感じました。

もし、こうした市川さんのアート性が日常生活のあらゆる空間にインテリアを介して散りばめられたならば、Artをもっと日常的に身近に感じられる世界が広がっていくことでしょう。

WORDS

point 0 marunouchi(ポイント ゼロ マルノウチ) ダイキン工業株式会社、株式会社オカムラ、ソフトバンク株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、三井物産株式会社、ライオン株式会社が2018年7月30日に共同発表した、空間データの協創プラットフォーム『CRESNECT(クレスネクト)』を活用し「未来のオフィス空間」づくりを目指すプロジェクトのひとつ https://www.point0.work/