ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」インタビュー 漆芸家・笹井史恵(後編)

ARTIST
ウルトラマンシリーズ60周年を記念して、B-OWNDによるスペシャルコラボレーション展が実現しました。本展では、「ポップカルチャー」と「工芸」を融合させ、アーティストたちがウルトラ怪獣の皮膚感や独自の造形美を再解釈し、創り出した作品が誕生しました。 参加した全8名の各アーティストに、ウルトラマンシリーズの「原体験」や制作背景について伺いました。
文章・B-OWND
写真・木村雄司 / 仲信達也

PROFILE

漆芸家。 1973年、大阪府生まれ。1998年、京都市立芸術大学大学院美術研究家漆工専攻修了。 2003‐2005年、タイ国立チェンマイ大学にて滞在制作(ポーラ美術振興財団、ユニオン造形文化財団在外研修助成)。2009年より、京都市立芸術大学にて教鞭をとる。受賞歴は、2014年、京都市芸術新人賞受賞、2015年、京都府文化賞奨励賞、タカシマヤ美術賞 受賞など。

伝統技法「乾漆」で表現する柔らかさと鋭さ

笹井史恵 ウルトラマン
写真提供:仲信達也

― 具体的な制作プロセスにおいて、特にこだわった技術や、技法的な葛藤はありましたか?

笹井 これまで工芸家の方々との素材同士のコラボレーション(漆×陶磁器など)は経験がありましたが、ウルトラマンのように誰もがよく知る具体的なモチーフと向き合うコラボは初めてでした。最初は「ちゃんとウルトラマンだと分かってもらえるか、ウルトラマンファンの方々に満足してもらえるか」という大きな不安がありました。

しかし、子どもの頃に夢中になったヒーローを、円谷プロさんの許諾をいただいて自分の手で作れるという喜びは、何物にも代えがたいものでしたね。

造形としては、漆という素材が持つ「ふっくらとした柔らかい魅力」と、ウルトラヒーローが内包する「シャープな鋭さ」を、どう一つの造形として同居させるかという部分にとても苦労しました。

私の作品の特徴でもある、そばに置いておきたくなるような親しみやすい「丸み」を出したかったので、ベースとなる顔の形は、本来の細長いウルトラマンの輪郭よりも少し「下膨れ」のふくよかな形にアレンジしています。この顔の土台は、麻布を漆で幾重にも張り重ねていく「乾漆(かんしつ)」の技法でじっくりと形作りました。

笹井史恵 ウルトラマン
写真提供:仲信達也

― 一方で、ウルトラヒーローの「格好よさ」や「シャープさ」を際立たせるためのアプローチはいかがでしたか。

笹井 トサカ状や二つ結び状のシャープなラインを出すために、そこは木材を細かく削り出して造形しています。

また、ウルトラの父の大きな角(ウルトラホーン)やもみあげ状のパーツ、ウルトラの母の象徴的な二つ結び状の飾り(銀十字勲章)は、最初から顔に接着して作業してしまうと、上から下地を塗ったり研いだりしていくうちに境界線の形がどんどん丸く甘くなってしまうんです。

そのため、角やもみあげは漆に木粉(パルプ)などを混ぜた粘土状の素材で別々に作りました。何度も「塗っては研ぐ」という工程を繰り返してエッジを尖らせておき、塗りが入った最終段階で顔とドッキングさせて漆で接着しました。

あえて目は入れず、特徴的なパーツのカーブや造形美の解釈だけで「ウルトラの父とウルトラの母」だと伝わるように、細部までフォルムを追求しています。

「工芸」と「ポップカルチャー」の幸せな融和

笹井史恵 ウルトラマン
写真提供:木村雄司

― 漆ならではの多様な素材の組み合わせも、作品に特別な華やかさを与えていますね。

笹井 せっかく漆を使うのなら、他にはない特別なウルトラの父とウルトラの母にしたいなと思い、ただ可愛いだけでなく、工芸ならではの様々な素材を贅沢に組み合わせることで、ウルトラヒーローとしてのピリッとした格好よさや威厳も表現したいと考えました。

― 伝統工芸とキャラクターの融合について、今回の挑戦を終えて今どのように捉えていますか?

笹井 もともと工芸というのは「使う人のことを徹底的に考える」という、利他的な精神がベースにある分野です。

一方でウルトラマンシリーズの世界にも、他者に寄り添う「利他的な精神」が深く根づいていますよね。

一見、伝統工芸とポップカルチャーは遠い場所にあるように見えますが、「誰かを想い、寄り添う」という根底の精神において、実はとても相性がよく、近いところにあるんだと気づかされました。

古来、日本の文化においては、襖絵がそのまま優れた絵画であり、日常の器に素晴らしい絵が描かれていたりと、ファインアートと工芸、サブカルチャーの間に明確な垣根はありませんでした。

今回の取り組みは私にとって非常に新鮮な視点をもたらしてくれましたし、こうした工芸とカルチャーの垣根を超えた試みが、これからもっと世の中に広がっていったらいいなと感じています。

今回の企画は、現在、男の子を育てている私にとっても、自分が子どもの頃に両親とウルトラマンを観ていた記憶や、「ワクワクした気持ち」をもう一度呼び起こしてくれる素晴らしい機会になりました。

漆芸を通して、かつての幼少期の自分にもう一度出会い、子ども時代をもう一回やり直させてもらっているような、そんな喜びとともにこの漆芸で表現したウルトラの父とウルトラの母を世に送り出せることを、この上なく幸せに思っています。

>>前編はこちら<<


ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」

会  期:2026年10月2日(金)~13日(火)
会  場:B-OWND Gallery
〒103-0028 東京都中央区八重洲1-6-1 TOFROM YAESU TOWER 1階
営業時間: 11時~20時

定休日:月曜日

月曜日が祝日の場合は営業し、翌平日に振替休業いたします