コレクターズインタビュー 初めてのアート作品購入|現代アートを購入した理由とは?

LIFESTYLE
アート作品をコレクトする様々な人を取材するコレクターズインタビュー。
第8弾の今回は、初めてアート作品を購入したという、二人の女性を取材しました。
なぜアート作品を購入したのか、またそれは、どのような感覚だったのでしょうか。
作品購入後の心境の変化などについてもお話を伺います。
文:大熊智子
編集・写真:B-OWND
作品写真:木村雄司

アートに興味を持ったきっかけは?

―まずは、簡単な自己紹介、仕事やご趣味などについてお話しください。

大場 大場 藍と申します。公共施設などをはじめとする様々な空間づくりを行う企業に勤務しています。新卒から5年が経ち、現在は営業職として主に商業空間を担当しています。営業の仕事は、企画から設計、施工までの全ての工程で1番お客様と関わりのあるポジションであり、橋渡し役です。

趣味は旅行です。コロナ禍で海外など遠出が難しいため、最近では都内近郊の温泉や、新しくオープンしたホテル、旅館での滞在を楽しんでいます。仕事柄もあり、いろんな土地にある建築物を見て周るのも好きですね。あと、最近ハマっているのは、カリグラフィです。SNSで見た動画がきっかけとなり、自分でもこんな風に書いてみたいと思って、専門書を見ながら練習するなどして楽しんでいます。

川島 川島 怜奈といいます。大場さんと同じ会社の2年後輩で、私も営業の仕事をしています。商業空間のなかでも、結婚式場やアミューズメント施設、また保育園を担当することが多いです。商業スペースと一言でいっても多種多様なものがあり、幅広くさまざまな施設を担当しています。

休日は、散歩をして過ごすのが好きです。行ったことのない町やエリアを決めて、こんなところにカフェや飲み屋がある!と、新しいものに出会うことが楽しいです。情報をストックしておいて、友人と一緒に出かけることもあります。

あとは、クラフトビールが大好きなので、取り扱っているお店を見つけるとうれしいですね。他にも、毎年いろいろな習い事にチャレンジしています。どちらかというと、幅広いものごとに興味・関心があるタイプです。

―お二人は、もともとアートに関心があったのでしょうか?きっかけとなった体験などがあれば、教えてください。

大場 両親がプロダクトデザイナーだったこともあり、アートにはもともと親しい環境で育ったと思います。父と母は、それぞれ気に入ったアートや工芸品を自宅に飾っていましたし、幼い頃から美術館に連れて行ってもらったりしていました。当時はアート鑑賞の面白さがまだ分からず、なかなかうまく楽しめなかったのですが…(笑)。

あとは、家族で家の内装を仕上げたことも思い出深いです。両親がデザインした家だったのですが、プロにお願いしたのは内装のボードを貼るところまでで、天井も鉄骨がむき出しのまま。週末、家族三人で壁や天井を塗るなど、少しずつ時間をかけて作り上げました。今思うと、これがとても面白く、現在の仕事にも繋がっていると思います。

アート作品にちゃんと興味を持ったのは、大学4年生の時でした。もともと旅行が趣味で、まとまった時間があると海外旅行に出かけていたのですが、卒業旅行では2カ月かけてフランスとイタリアを周遊しました。さまざまな美術館を訪れ、多くのアート作品を触れ合う中で「本物ってすごい!」と強い感銘を受けたことを覚えています。なかでも、モネなどの印象派の作品の美しさに魅せられましたね。それ以降、自分でも好んで美術館に行くようになり、アートやデザインに興味を持つようになりました。

川島 私は、もともと「モノの裏がわ」に興味を持っていました。いろいろな業界の「裏がわ」を見てみたいと、学生時代はとにかく様々なアルバイトを経験しました。例えば、書店やパン屋では、実際にどんな人がどんな風に動いているのか、そういうことへの興味が強かったんです。そのなかでも、1番影響を受けたのが、あるカフェでのアルバイトでした。オープニングスタッフだったこともあり、店舗オープンの前から関わらせていただいたのですが、そこで設計者の方のお話を聞く機会がありました。その内容がとても興味深く、今でも覚えています。

店舗の壁には、一枚の山の絵がかけられていました。その作品は、特に有名な作品というわけではなかったのですが、地元の人にとって馴染みのある景色だったんです。実はその山は、住宅地として開発されることが決まっていて、現在はもうありません。当時、それを知った設計者の人が「この山の絵を飾りたい」「絵を見た人がその山のある景色を思い出してくれたらいい」という思いでこの絵を選んだという話を聞き、こういう考えで作品を選んでいるんだと感心しました。

何気なく飾ってある絵にも意味があると知って、アートや空間そのものを作ることに興味を持つようになりました。たとえば、壁の絵だけでなく、何気なく置かれているオブジェや、照明の配置や色、通路の幅、それら全てに何かを表現するための理由があるんじゃないかと、そういった視点を持てるようになったんですね。それをもっと知りたいと思い、現在の仕事に繋がっていきました。

―お二人ともアートやデザインへの興味がお仕事にも繋がっていらっしゃるのですね。

大場 そうですね。私自身が自分の手を動かして、何かを作り出すわけではないのですが、就職活動の際には「モノづくり」に関わる仕事にこだわりました。しかも、いつも同じものを作り続けるのではなく、ニーズや要望に合わせて作り上げていく、変化のある仕事をしたいとの思いがありました。

川島 カフェでの体験から、店舗のデザインって「どういう人が、どんな思いでやっているんだろう?」と興味を抱くようになり、そこから店舗や空間づくりを担う企業を探し、今の勤め先と出会いました。大場さんと同じく営業担当ですが、営業の仕事は調査や企画の段階からお客様と関われるのがいいですね。もともと1つのことをとことん突き詰めるというより、いろいろなことに興味を持つタイプなので、さまざまな人と出会える営業の仕事は魅力的だと感じています。

アート作品を購入したのはなぜ?

―お二人は、2021年11月に羽田イノベーションシティで開催された「HANEDA ART EVENT -アート×茶会の新しい形-」にお越しいただきました。会場で陶作家の酒井智也さんの作品を購入され、それが初めてのアート作品の購入だったとのことですね。

購入した作品は、酒井智也氏の《ReCollection series しだモ》(2021)
酒井智也アーティストページ
写真:木村雄司

大場 はい。今までポスターなどは購入したことがありましたが、アート作品は初めてでした。ちょうど、自宅を模様替えしていたタイミングだったこともあり、webサイトや雑誌などで紹介されている素敵な部屋を眺めていたところだったんです。生活を変えるというか整えるというか、私もこんな部屋で心が安らいで豊かになる生活をおくりたいなと考えていました。

酒井さんの作品は、B-OWNDのECサイトで見たときから気になっていたのですが、イベントを訪れたタイミングがちょうどよいきっかけとなりました。実物を前に、やっぱり「めっちゃ可愛い!可愛すぎる!」と、思わずテンションがあがってしまいました。

購入した作品は、酒井智也氏の《ReCollection series みさモ》(2021)
酒井智也アーティストページ
写真:木村雄司

川島 実は以前から、アート作品を購入することへの興味はあったんです。アートのある空間で生活するのは、文化的というか、人生そのものが豊かになるんだろうなと思っていました。ですが一方で、アート作品を購入されている人をどこか「自分とは違う世界の人」だとも感じていました。ですが、イベント会場で酒井さんの作品を拝見したとき、可愛いと感じたのはもちろん、何より、自分の部屋に置いたとき、違和感なく馴染んでくれそうだと思ったんです。購入の際は少し考えましたが、作品についてのお話もいろいろと伺うなかで、難しく考えなくてもいいんじゃないかなと思いました。

―実際に酒井智也さんの作品を購入し、生活のなかではどのように楽しまれていますか?

大場さんの自宅にて 
写真提供:大場藍

大場 私にとっては、用途がある陶芸作品であるところが合っていると思っています。やっぱり観るだけよりも、使って楽しめる方がより作品を身近に感じられる気がするからです。そのまま飾ってもいいし、お花を挿してもいい。自分なりの楽しみ方ができるという点が魅力だと感じています。

酒井さんの作品は、色合いや形がポップで存在感がありながらも、やさしい感じがするんです。先ほどモネなどの印象派が好きだと話しましたが、明るくやさしい色合いが好みです。作品を眺めながら、自分にとって心地よく感じる風景を思い浮かべているのかもしれません。コロナ禍で、旅行にもあまり行けないし、そういう時間の過ごし方も大切ですよね。

川島さんの自宅にて
写真提供:川島怜奈

川島 私は、窓際のキャビネットの上に置いて、毎日眺めています。私にとって、アートの購入は、アクセサリーや、ちょっと高価なお洋服を買う感覚と近いかもしれません。買おうかどうしようか迷うんだけど、本当に気に入ったものなら、思い切って!という感じです。それを持っていると、毎日をちょっと幸せに過ごすことができますよね。だから、「ずっとお家にあって欲しい」と心から思う、自分にとって大切な財産のようなものです。

今の世の中、普通に働くことができれば、食べることに困ることは、あまりないと思います。だからこそ、そのなかでどうやって自己実現していくか、もっと簡単に言うならば、どんな服を着たいか、どんな仕事に就きたいか、どんな人生を送っていきたいか、そういうところにポイントがあると思うんです。アートは、そこにあるだけで暮らしが豊かになるというか、自分の気持ちや文化レベルを上げてくれるような、そんな存在かもしれません。

アート作品の購入を通して得たもの

―アート作品を購入してみて、ご自身のなかで何か変化はあったでしょうか?

大場 モノや商品を見るときに、作り手の顔を思い浮かべるようになりました。たとえば、どんな思いで作られているのかを想像するようになり、作り手の顔が見えないものはあまり欲しくないかも、と思うことも増えたように感じます。

モノの背景にある「理由」が感じられるものを、自分のそばに置きたいんです。

アクセサリーとか着物とか器とか、私自身、祖母から受け継いでいるものが沢山あるのですが、誰かが大切にしてきたものがそばにあるのって、やっぱりいいなって改めて気づきました。だから、酒井さんの作品を含め、私が大切にしてきたものも、いつかは大切な誰かに引き継いでいきたいと思うようになりましたね。ただ消費されていくんじゃなくてみんなが楽しめる、大切にしてもらえるものであって欲しいと思います。

川島 私もモノを購入する時の意識が変わりました。大量生産・大量消費の今だからこそ「どうして、この値段なのか?」を考えるようになりましたね。モノを作る技術や仕事に対する対価はきちんと払われるべきだし、消費者である私たちの意識が変わっていくことも必要だと感じています。アート作品もそうですが、モノが持つ背景や文脈を知ること、それらに対する知識を深めていくことで、もっと愛着を感じることができるようになったのは、自分にとっての大きな変化だと思います。

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