HARTi HARTi・吉田勇也に息づく感性が巡る経済に懸ける想い|NFTの可能性とは?(前編)

BUSINESS
感性が巡る経済を創りたい。
そう語るのは、今回B-OWNDと連携することになった株式会社HARTiの創業者・吉田勇也氏。
起業に至るまでのライフストーリーについて、
また近年、アート業界でも話題のNFTの可能性についてインタビューしました。
文・写真:B-OWND
写真提供:吉田勇也

PROFILE

吉田勇也

1995年、広島県生まれ。広島大学附属福山高校、中央大学法学部法律学科卒業。19歳で起業し、フランス語のオンライン塾を経営したのち事業譲渡。世界40カ国をバックパッカーとして巡り帰国。2017年、英国・ウェストミンスター大学でアートマーケティングを専攻。2019年、HARTiを創業。東洋経済「すごいベンチャー100」に掲載。2020年、Plug and Play JapanのBrand&RetailにてAward受賞。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2020に採択された。

HARTiは「感性が巡る経済を創る」が理念

HARTi創業者 吉田勇也氏

現代アーティストのプロダクション業を手掛けるHARTi(ハーティ)は、アーティストの価値の最大化を目指し、ブランディング・プロモーションのほか、作品の販路拡大や海外展開なども支援するスタートアップです。テクノロジーを活用し、日本・アジアから新しいマーケットを創造して、「感性」が広く社会に還元される世界を目指すという指針が、B-OWNDのビジョンと共鳴し、連携がスタートしました。今後、6月に開催予定の陶芸家・古賀崇洋氏の個展を皮切りに、さまざまなプロジェクトで協働していきます。

創業者である吉田勇也氏は、23歳の時にHARTiを立ち上げた、新進気鋭の若手起業家です。なぜ彼はアートに着目し、HARTiを立ち上げたのでしょうか。そのライフヒストリーを追いながら、アートの「力」について実感した体験、テクノロジーの活用、そして現在の事業を通してめざす、社会のあり方ついてお話を伺います。

自分の景色を広げたい

—吉田さんは、はじめての起業は19才の頃と伺ったのですが、なぜ、事業を起こそうと決断されたのでしょうか?

吉田 僕の根幹には「自分の世界を広げたい」というモチベーションがあります。広島県の村出身ということもあり、小さな頃から「今、いる場所の外には何があるんだろう?」と好奇心で胸がいっぱいでした。大学進学をきっかけに上京して、その想いが爆発した選択が起業だったんです。

—「小さな村に住んでいる」という意識が広い世界に向けた好奇心を育む。都会への憧れとはまた違った豊かな感覚ですよね。

吉田 ときには、この狭い生活圏から抜け出したいと思うこともありましたが、今思えば、都会と違ってゲームもなれけば、レジャーもない。自分たちでルールを決めて、オリジナルな遊びを創り出すのが当たり前でした。その環境は少なからず起業家に求められる0から何かを生み出す創造力に影響を与えていたと思います。

—たしかに、現代はインターネットが浸透したことで、こどもたちはさまざまな遊びの手段を手にできるようになりましたが、何もないからこそ新しいものを作って遊ぼうとする。これはクリエイティビティを育む良い機会になりますよね。具体的には、どのような事業をされていたのでしょうか?

吉田 大学受験のフランス語科目を指導する塾を作りました。僕は外の世界に興味があったので、英語やフランス語など語学を学ぶことが好きだったんです。その強みを活かして、難関大学の入試で英語は難しいけれども、フランス語は比較的に簡単ということに着目して受験対策を行う高校に向けてサービスを提供しました。実際に、僕もフランス語を教えていました。そして、1年半ほど運営した後に、事業譲渡しました。

—実際に、起業家になってから価値観に変化はありましたか?

吉田 そうですね。起業家として生きるようになってから、さまざまな人たちと会わせていただく機会に恵まれました。特に、経営者として生きる人たちのライフストーリーは現実とは思えないほど、ぶっ飛んでるんです(笑)

学校に行ってなかった人もいれば、死の淵から生還した人もいる。どんな波乱万丈のストーリーが過去にあったとしても、それをバネに結果を出せば、公平に評価される。僕も心なしか同世代と話が合わなくて、周囲とのギャップを感じることが多かったのですが、実業の世界では関係ないと気づけたのは大きな変化でしたね。そのフェアさが自分の生き方には合っていたんです。

—たしかに、経営者というか、何かを全力で挑む人たちのなかには、想像を絶する逆境を乗り越えてきた方たちがいますよね。その人間の底力には、状況を一変させるような凄みがある。困難があったからこそ培われたエネルギーを創造力に変換して、起業家という生き方を選択している人たちも多いのではないでしょうか。

アートの可能性に気づいた瞬間

ロンドン留学中の吉田氏
写真提供:吉田勇也

—吉田さんは事業を譲渡した後、海外を巡られたと伺ったのですが、どのような経緯があったのでしょうか?

吉田 僕は世界史に興味があったのですが、海外に出る機会はありませんでした。そもそも、20才になるまで飛行機も乗ったことなかったんです(笑)だから、まずは「行ってみたい!」という気持ちが強かったですね。それで、どうせ行くなら、体力のある若いうちにしか行けないところ、日本人があまり行かない国に足を運んでみようと思って、イスラエルなどの中東を巡りました。

—そうだったんですね。何か心に残るエピソードはありましたか?

吉田 パレスチナに行ったときの話なのですが、そこにはイスラエルと分離するために建設された「鉄の壁」がありました。その壁に沿って移動していると、バンクシーが描いた花束を壁の向こうに投げようとする少年の絵を見つけたんです。

一人のアーティスト、人間がイスラエル・パレスチナ問題に対してアクションを起こしている。その事実に心を動かされました。政治でもなければ、法律でもない。アートが人の心を揺り動かす。その可能性に目の奥が開いていくような思いでした。

—火炎瓶ではなく、花束を持っているところに強いメッセージ性を感じられます。政治家が主張すれば、イデオロギーに還元されてしまうおそれがありますが、アーティストであれば作品を通じて人々の感性にまっすぐ訴えかけられる。これもまた大きな可能性ですよね。日本に戻ったあとは、どうされていたのですか?

吉田 その後は、国際政治を極めようとロンドンに留学して、名門に通う学生たちとディスカッションしたり、最先端の学問に取り組んだりしたのですが、厳しい国際情勢に対する無力感にも似たフラストレーションが消えずに思い悩んでいました。

でも、現地の美術館やギャラリーを訪れてアート作品を鑑賞すると、葛藤していた心の緊張がほぐれたんです。改めて、イギリスの街並みを見渡してみると、アートと調和した美しい景観が広がっている。もしかしたら、ここに自分が本当にやりたいことがあるかもしれない。その可能性を追求しようと、アート・マーケティングに専攻を切り替えました。

感性を巡る経済に込められた想い

—イギリス留学を経て、HARTiを創業されたきっかけは何だったのでしょうか?

吉田 村出身ということもあって、元から地域の過疎化に関心を持っていました。小さい頃に通っていた遊園地が潰れたり、保育園が無くなったりするなど、あの頃の楽しかった思い出の場所が消えてゆく。それを何とかして食い止められないだろうかと思っていたんです。

ロンドン留学では、そのヒントをつかむことができました。かつて、イースト・ロンドンも治安が悪くて廃れつつありましたが、アートを地域社会に導入することで活気を取り戻すことに成功しました。現在のロンドンでも、無料で入場できる美術館があり、街を歩けば芸術を身近に感じられる。街全体にアートを受け入れる素地があるんです。そこからインスピレーションを受けて、アートと都市計画を掛け合わせて、人々が集まる経済的な仕組みを作りたいと思ったのがHARTiを創業した一番の動機です。

—HARTiでは、「感性が巡る経済を創る」という企業理念が掲げられていますが、そこにはどのような想いが込められているのでしょうか?

吉田 僕らの世代って「ロストジェネレーション」と言われるじゃないですか。かつては、世界時価総額ランキングの上位には日系企業が名を連ねていましたが、今やその姿はありません。でも、僕はもう一度、日本から世界を驚かすようなものを作りたい。日本の精神性から世界に通用する「Japan as only one」のコンテンツを生み出したいんです。

そのためには、「Japan as number one」と呼ばれた時代を牽引した合理的で効率的な経済モデルだけではなく、アートをはじめとする良い意味での「無駄」や「感性」をビジネスに織り交ぜた新しい領域を作っていく必要があると思います。

「アートへの感動を可視化する実験展」の様子(2019年10月)
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写真提供:吉田勇也

—なぜ、感性が今後のビジネスで重要になると考えていらっしゃるのでしょうか?

吉田 極論を言えば、「AだからB、BだからC」という論理をベースに描かれたビジネスモデルは真似されてしまいます。プロダクトにしても、製品の情報さえあれば、より高品質で安い商品を物価の低い国で量産できる。しかし、「XさんだからA、YさんだからB」という左脳的な感性からは、その人でなければならない代替不可能な価値が生まれるはずです。そもそもそのAはA’ではないのか?と疑うことが出来る人材も必要です。いくらAIが発展したとしても、その人という存在がもたらす価値を取って替わることはできないと思います。ここを起点とするビジネスを生み出していかないと、持続可能な経済成長を遂げることはできないのではないでしょうか。

—吉田さんの言う「感性が巡る経済を創る」というビジョンが実現したら、どのような社会になると思いますか?

吉田 ディズニーランドにいるような人たちが社会に溢れたらいいなと思っています。ディズニーランドにいる人たちって、みんな、キャラクターのコスプレしたり、アトラクションで遊んだりして、存分に個性を発揮して楽しそうじゃないですか。でも、ゲートを出た瞬間に、すごい現実に引き戻された憂鬱な顔になる(笑)あの姿を見たときに、何と言うか、とても虚しい気持ちになるんです。その現実って何だろう、そんなに楽しくないのかなって……。わかりやすく言えば、そのゲートのない社会を創りたいんです。

—とてもわかりやすいですね。いわゆる、日本文化には、良くも悪くも、本音と建前のような内と外で振る舞いが変わるといった側面があると思います。家の中にいる自分と企業の中にいる自分。その二つの自分が矛盾して股裂き状態になって悩んでいる人たちもたくさんいるのではないでしょうか。

吉田 そうですね。やっぱり、自分が楽しんでいると、他人が楽しむのも応援できるようになるし、逆に我慢している人は、他人にも自分を押さえ込むことを無意識に強制してしまうと思うんですよね。だから、個性や感情を発揮するのを阻む壁を取り払いたい。それが僕が目指している世界観です。それを実現するための事業として、まずはアートが都市に根づくためのインフラを整備する。その結果、人々が集まってホテルやカフェができる。そうなれば、土地の値段も上昇するはずです。そのようにして、感性を基軸にした産業の集積を地域経済の取り入れることからゲートのない経済圏を創りたいと思っています。

—もしかしたら、現代の日本社会に漂う閉塞感って、そういった自己矛盾が原因なのかもしれませんね。一方、アーティストは自らの表現を人生を懸けて追求する方たちがほとんどですから、自己が一致した人たちが多いと思います。

吉田 アーティストは自分のロマンに忠実です。これこそが今、日本全体に求められていると考えています。実際、世界時価総額ランキングのトップに並ぶのは、みんな人々の心を魅了するビジョンを持った経営者です。その意味では、イーロン・マスクもテスラをはじめ宇宙にまで想いを巡らせる大ロマンの持ち主、アーティストなんです。

一方で、日本社会を見ると、その部分がカラカラに乾いている。未来に向かって夢や展望を堂々と語れるリーダーがもっと出てこないと、日本社会の行き詰まりは解決できないのではないでしょうか。

—だれもが人生の主役として心に抱いたロマンを表現して生きる。きっと、その目はキラキラしているに違いありません。改めて、「感性が巡る経済を創る」という言葉の奥にある吉田さんの決意に感動しました。次回は、HARTiで実施されている具体的な事業と近年、アート分野でも注目されているNFT(Non-Fungible Token)についてお話を伺えればと思います。

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