市川透 未来への視座-陶芸家・市川透インタビュー(後編)
その作品は、大地のエネルギーを感じさせるような雄々しいフォルム、鮮やかな釉薬を施した色彩が特徴的だ。
野性的でありながらもラグジュアリーな作品は、独特の存在感を放っている。
今回の取材では、修業時代のエピソードから将来の展望まで、陶芸家・市川透の原点と未来に迫る。
文:B-OWND
その他写真:石上洋、砂川俊夫
PROFILE
市川透
陶芸家。1973年、東京都生まれ。陶芸家・隠﨑隆一氏に師事。2015年、岡山県にて独立。備前焼の概念を覆す作品を多数発表。色鮮やかでラグジュアリーな作品は、圧倒的な存在感を放つ。国内外のギャラリーや百貨店にて個展を開催、多数のアートフェアにも出品している。
陶器は土モノ
――土という素材に関しては、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
市川 僕が作っているのは「土モノ」なんだ、という意識があります。採取した土は、滑らかに精製すればするほど、土っぽさが薄れて、表面の味がなくなっていくのです。それは、きれいといえばきれいなのですが、工業製品に近づいていくような気がしていて。僕は、そういった「きれいなもの」は、機械に作ってもらったらいいと思っているんですよ。
だから、僕自身が作るものは、余分と思われるような石や砂を捨てずに残して、表情を原土に近いものにもどしてあげる、ということを大切にしていますね。
――以前市川さんが、制作の合間にご近所に散歩へ行かれるとお話されている中で、よく自然の風景をご覧になるとおっしゃっていたのが印象的でした。そこで、「浸食した岩に惹かれる」ということを聞いたとき、作品に表われているゴツゴツとした表面の感じが思い起こされたのですが、そういったものが作品のインスピレーションに繋がることはあるのでしょうか?
市川 たとえば「泡沫」というシリーズがありますが、これは泡が沸いては消えていく様にヒントを得ました。当然、自然の素材を取り扱っているわけですから、結果的にそれが浸食した岩肌のようなものになるときもありますよ。
あとは、オーダーで注文いただいた《ワタツミ》もそうですね。タイトルは海の神様の名前ですが、作品全体が海のような、サンゴ礁などをイメージした作品です。これ、実は寿司台なんです。ネタの鮮やかさを引き立てるために、釉薬で表面をにじませて、色も鮮やかすぎない金や黒っぽいプラチナを品よく散りばめました。ネタが乗ることで初めて美術品として完成するというもので、とてもご好評いただきました。
ファッショナブルに、自由に、アートを日常へ
――工芸という分野の中では、よく「用の美」という言葉が使われますが、陶芸家としてアート作品を生み出している市川さんは、これについてはどうお考えでしょうか。
市川 よく言われるのは、工芸の分野だと、純粋なアートとは見られにくいということですね。ここにはいろいろな歴史や文脈があると思いますから一概には言えないのですが、僕は「用」があるという点については、強味も感じています。ずっと生活が豊かになるような作品を制作したいという思いで制作を続けてきましたし、作品はそういうものでなくてはならないと思っています。
僕はこれから、もっと多くの人のもとにアートを届けたい。そのためには今まで以上に、幅広い世代に訴求するような作品を制作していきたいと考えています。陶芸というと、いわゆる伝統工芸のイメージだろうと思いますが、もっとファッショナブルな作品を自由な発想で作って、陶芸というもののイメージを変えていきたいのです。
若者たちは、ファッションには興味があって、お金を費やしていいますよね。そういったことも意識していくことで、陶芸はこれからの時代も生き残っていく文化になるのではないかと思うのです。たとえば彼女へのプレゼントとして選択肢に挙がってもいいはずです。
市川 そういった生活を、ぜひ体感していただきたいですね。僕が道を切り開いていくことで、いずれは若いアーティストたちももっと増えてくれるんじゃないかと思っています。そうなったらもっとよい循環ができて、僕自身もうれしいですし、まずは自分が先陣を切らなくてはという思いもあります。
――独立されてから5年あまりが経過しましたが、今後はどういった展開をお考えですか。
市川 そういえば、以前《ワタツミ》という寿司台のオーダーをして頂いたレストランのオーナーの、新しいお店づくりにも関わらせていただくかもしれません。それは、器以外の空間も含めてということです。最近ではやはり空間全体で作品を見せていきたいという思いが出てきましたから、今後はこういった機会にも積極的にチャレンジし、作品の見せ方はもちろんですが、空間プロデュースの分野などへも活動の場を広げていきたいですね。
――市川さんがプロデュースする空間がどんなものになるのか、是非見てみたいですね。自分の可能性を信じてまだ見ぬ世界に向かって挑戦を続ける市川さん、今後の活躍も楽しみにしております。本日はありがとうございました。
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