ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」インタビュー陶芸家・今村能章(後編)
写真・仲信達也
PROFILE
1984年兵庫県生まれ、沖縄県在住。幼少期より未確認生物や「未知なるもの」への強い関心を持ち、既存の分類に当てはまらない圧倒的な存在感を、陶という素材を通じて具現化し続けています。
窯という「超常現象発生装置」

― 今村さんは一貫して「重力」や「時間」の作用を視覚化する作品を作られていますが、その原点はどこにあるのでしょうか。
今村:子どもの頃から、未確認生物や超常現象がとにかく好きだったんです。火の玉とか幽霊とか、見たことはないけれど「見てみたい」という強い憧れが今でもあります。陶芸をやっていて一番アドレナリンが出るのは、窯を開けて作品を取り出す瞬間です。間違いなく自分が「最初の目撃者」になれる。
自分のイメージ通りに上手く作れたものって、僕にとっては自分の想像を超えていかないから面白くないんです。
それよりも、窯の中で自分の手から離れて、熱と重力によって形がぐにゃりと歪んだり、崩壊しかけたりしているものの方が、圧倒的にワクワクする。それこそが、彫刻や絵画にはない陶芸だけの魅力だと思っています。
― 誰もが当たり前に受け入れている「重力」や「時間」に対して、疑問を持つようになったきっかけは?
今村:1秒、2秒という刻みで当たり前に世界は回っているけれど、時間がものすごく早く過ぎる時もあれば、異様に長く感じる時もありますよね。あれは気のせいではなく、本当に時間が歪んでいるんじゃないかと子どもの頃から考えていました。
重力だって、なぜ僕たちは常に地面にへばりついていなきゃいけないのかと(笑)。
陶芸の窯の中は1,200度以上になりますが、これは地球が何万年もかけて行う鉱物の変化を、たった12時間とかでやってしまう場所です。そこに時間のバグを感じる。僕にとって窯は「タイムマシーン」であり「超常現象発生装置」なんです。
まだGoogle先生も知らないような未知の現象を、自分が最初の目撃者として体験できる。
その優越感とワクワク感に心を奪われて、僕は今も陶芸を続けています。
エスプレッソという濃縮されたエッセンス

― 今村さんの「エスプレッソカップ」ですが、コーヒー文化にのめり込んだ背景を教えてください。
今村 大学を卒業した後、イタリア料理系のピザ屋で働き始めたんです。そこにあったレバー式の大きなエスプレッソマシンの扱いがすごく難しくて、オーナーが惜しげもなく何千杯分もの豆を使わせてくれて、徹底的に練習させてくれました。その中で、あるとき「ゲイシャ」という浅煎りのコーヒー豆のエスプレッソを飲む機会があったんです。
それを口にした瞬間、まるで昆虫が美味しい花の蜜に出会ったかのような、お花畑にパッと放り出されたような衝撃を受けました。そのとき、「イタリアの文化から入ったエスプレッソだけど、この繊細な味を、日本人の感覚で作った独自のカップで飲みたい」と思ったのがすべての始まりです。薄い口当たりや角度を研究して独自のカップを作っていく中で、のめり込んでいきました。

― ご自身の「重力の作品」と「エスプレッソ」には、どのような親和性があると感じていますか?
今村 コーヒーの美味しい部分だけを濃縮したエスプレッソは、油分と乳化した液体がドロッと落ちてくるのですが、その流れる様が、僕の作品のガラスが流れる姿にそっくりなんです。
僕のガラスは窯の中で1〜2時間かけてゆっくり流れますが、エスプレッソはわずか10秒、20秒の間に重力に従って流れていく。時間軸が違うだけで、全く同じ現象が起きているんです。エスプレッソも、飲むたびに毎回違う表情を見せてくれる「未知なるもの」だからこそ、僕にとってはたまらない魅力があります。
人間が立ち戻るための「預言者」

― 近年、精力的に発表されている「預言者(よげんしゃ)」シリーズについて教えてください。
今村 僕はクリスチャンの家庭で育ったのですが、様々な宗教において、神と人間は直接やり取りをせず、その中間地点に翻訳者として「預言者」が存在します。沖縄でいう「ユタ」のような、神からのイメージを人間の言葉に転換する未知の存在。そのワクワクする世界を作りたいと思って生まれたシリーズです。脳みそのようでもあり、よく分からない造形物に、重力という未知の塊がまとわりついている姿。

今の世の中って、スマホで調べればすぐにそれっぽい答えが出ますよね。でも、それが嘘かもしれないと分かっていながら、忙しすぎて納得せざるを得ない。理解したつもりになって進んでいるけれど、人類は本質的にはちっとも前に進んでいないんじゃないかと思うんです。
かつて、その本質を確かめるためにアートが役割を果たしていたはずなのに、今の表現はどこか政治的だったり批判的だったりする。アートはもっと純粋に、人間をワクワクさせて本質に立ち戻らせてくれるものであるべきです。各家庭に昔、招き猫が置いてあったように、この「預言者」が身近にあることで、目まぐるしい社会の中でふと立ち止まり、冷静に深呼吸して本質を思い返せる。そんな人間らしさを取り戻すための「翻訳者」として、これからも預言者を作り続けていきたいですね。
ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」
会 期:2026年10月2日(金)~13日(火)
会 場:B-OWND Gallery
〒103-0028 東京都中央区八重洲1-6-1 TOFROM YAESU TOWER 1階
営業時間: 11時~20時
定休日:月曜日
月曜日が祝日の場合は営業し、翌平日に振替休業いたします