SDGsとアート|工芸の可能性

BUSINESS
持続可能な開発目標、SDGs。
SDGsは今日、企業や教育現場など、多くの活動がその指針とするものになっている。
地球規模で考える必要のある、この持続可能な開発目標と、アートとしての工芸の接点は?
今回はSDGsの視点から、アートとしての工芸の可能性を考えてみたい。
文:ふるみれい
写真:石上洋

SGDsが目指すもの

SDGs(持続可能な開発目標/Sustainable Development Goals)は、国連加盟国が2016年から2030年までの15年間で達成するとした開発目標です。2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択されました。世界が抱えるさまざまな課題の解決に向けて各国が取り組むべき目標を掲げており、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、水と衛生、エネルギー、働きがい、産業と技術革新の基盤づくり、まちづくり、気候変動、環境保全、平和と公正など、17の目標は多岐にわたっています。

SDGsからみたアートとしての工芸

このSDGsと工芸とが接続する領域としてまず思い浮かぶのは、環境保全ではないでしょうか。

工芸は、その土地が産するものを使い、それぞれの地域で技法を発展させてきました。工芸で用いられる材料は、木や竹、植物、土、石、鉱物といった自然素材が中心です。その土地の木材と漆を用いて漆芸品がつくられ、その土地の陶土、磁石(じせき)で焼き物が焼かれる。その地が産する草木などを使って糸を紡ぎ、染め、織る。環境と調和をはかりながら、工芸はなりわいとして成立してきたといえます。

こうした環境との調和は、B-OWNDの参加アーティストにも共通する要素ともなっています。

竹工芸の中臣一さんは、大分県竹田市で、仲間とともに山に手を入れ、竹を育てています。竹を育てはじめたのは、地域の竹材業が衰退するにつれ、自前で材料を入手しなければならない状況が目前に迫っていたから。こうした切実な社会的背景に背中を押されて始まったことですが、竹を育てる作業は、竹という植物そのものと対峙することであり、竹の深い理解につながったと中臣さんは語っています。山を整備し竹を育てることは、常にその健全な生育環境の保全に心を砕くことになります。この行為は結果として、地域の自然環境の保全につながる営みともなります。

中臣一 《8祝ぐ, bounce》
中臣一 《Frill, slide》

同じ竹工芸の四代田辺竹雲斎さんは、作品に用いる竹材を再利用しています。田辺さんは竹材を自在に使った壮大なインスタレーションで知られますが、使用された竹材の約9割は、新たな竹材と合わせて、次のインスタレーションへと再利用され、新たな形を与えられています。世界各地で展開されるインスタレーションは、あたかも新旧入れ替わる細胞のように、材を入れ替え、形を変え、脈々とつながりながら、次の作品へと変化しています。作品間の連続性は田辺さんの作品のコンセプトともなっていますが、資源の有効活用という点でも環境配慮型のアートを成立させる要素となっています。巨大インスタレーションの多くが展示終了後に廃棄されるなか、まさに「サスティナブル・アート」を体現しています。

丹青社のオフィスエントランスを彩った四代田辺竹雲斎×B-OWND
『竹によるインスタレーション-Gather-』

その土地の素材を利用するということにおいては、漆芸家・若宮隆志さんの創作活動もあげるべきでしょう。

輪島の材や珪藻土といった素材を用いる。輪島漆再生プロジェクト実行委員会を立ち上げ輪島の地で漆の木を育てる。若宮さんのこうした活動の背景には、古くから輪島の人々が育んできた伝統や文化、地域の風土への限りない敬慕があります。

輪島という、誰もが知る漆芸の一大拠点。その伝統を引き継ぎ、新たな生命を吹き込みながら、漆芸の文化を育て続ける。この活動は、漆芸アート集団「彦十蒔絵」を率い、なりわいをつくることを通して実践されています。

https://hikoju-makie.com/about/
漆を掻く若宮さん
B-OWND 若宮隆志
若宮隆志 《本朱 猿鬼 ぐいのみ》
作品の販売ページはこちら

人形師・中村弘峰さんもまた、地域にこだわりをもつ一人でしょう。博多人形を家業とする家に生を受けた中村さんは、その作品に博多の土を使っています。用いる技法、意匠は「博多」を超えて日本の人形全般の伝統に置きつつも、その根は博多の大地に下ろしています。

国内外にその名を知られる中村さんの活動もまた、地元福岡の太宰府天満宮の干支人形や福岡市立博物館のミュージアムグッズ、地元ホテルの内部装飾へと展開しています。福岡というマーケットを地の利として、素材の「地産」に加えて作品の「地消」も実現しています。

中村弘峰 《太宰府天満宮干支人形》

環境と接続するのは、ここに挙げたアーティストだけではありません。アートとしての工芸は、多くの場合、地域固有の伝統を背景にもっています。その伝統は、地域の自然から素材を得て、それぞれに技を発展させて成り立ってきたものです。ですから、アートとしての工芸がビジネスとして成立するとき、その土地の環境に向き合うことになります。工芸と環境保全との親和性は、こうした、その土地の風土によって育まれてきたアートの宿命でもあるのでしょう。

その土地の環境と向き合うなかで生み出される作品が、グローバルに活躍の場を広げていることもまた、アートとしての工芸の面白さです。ローカリティを伴った作品の魅力が、今日、グローバルに認知されています。

地域で持続するということ

過去のインタビューのなかで中村さんは、工芸が地域で持続することは地域の産業、環境の持続にとっても有効であり、地域のアイデンティティや誇り、精神的なよりどころともなる可能性がある、と述べています。

地域の伝統を背景にもつアートとしての工芸。先ほども触れたように、それがビジネスとして成立するには、環境の保全という面を避けて通ることはできません。それだけではなく、アートとしての工芸がビジネスになれば、材料や道具の製造、それらを活用した事業に関わる人々の雇用や経済面にも好影響がもたらされます。地域の精神的な支柱として成立することで、関係する人々にとって、SDGsが掲げるもう一つの目標、「働きがい」につながる可能性もあります。

あらためて考えてみると、アートとしての工芸は、単なる環境保全の枠を超えて、SDGsの掲げる持続可能な営みとなりえるようです。SDGsと工芸のかかわりから、地域で循環するビジネスとしての工芸のカタチ、アートによる持続的な地域づくりの可能性が見えてきます。

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