宮下サトシ インタビュー | メタモルフォーゼする陶芸(前編)

ARTIST
陶芸家・美術家として活動する宮下サトシは、
アメリカのカートゥーンアニメーションに影響を受けた作品を制作している。
既製品のオモチャの再構成によるオブジェ、ヴィヴィットなカラー、
空想上の生き物たちが繰り広げる非日常の描写などによって、独自のサイケデリックな世界観を提示する。
今回の取材では、陶芸にアニメーションの手法を取り入れた作品など、
常識にとらわれない視点で制作を続ける宮下の原点、現在の活動、そしてこれからの展開について聞いた。
取材・文:B-OWND
写真:木村雄司

PROFILE

宮下サトシ

美術家・陶芸家。1992年、東京生まれ。2016年、多摩美術大学工芸学科陶専攻卒業。2017年、アートアニメーションのちいさな学校卒業。主な展示は2019年、「TOKYO2021 慰霊のエンジニアリング un/realengine」(東京)、2019年、キュレーション及び出展した「ceramic scramble」(東京)、2020年、「Beautiful Dreamer」(香港)、2020年、「Y-generation artist」(東京)、2020年「BUSTERCALL=ONEPIECE展」(神奈川)、2021年、「仮想世代陶芸」(東京)など多数。また、「ABC-MART」、「NIKE」などともコラボレーションしている。

体感でバランスをとっていく制作スタイル

―宮下さんは、いわゆる一般的な「陶芸」のイメージにとらわれない作品を制作されています。まずは、モノづくりへの興味のきっかけ、そして「陶芸」を選択された理由についてお聞かせください。

宮下 一番初めのきっかけは、幼少期に通っていた「モンテッソーリ 子どもの家」でした。そこでは、泥遊び、工作など、やりたいことを自由にやらせてくれる環境で、作ることが楽しいと感じたのを覚えています。

「陶芸」を選んだ大きな理由は、粘土という素材との相性です。僕は子供のころから活発で、高校ではラグビー部で泥にまみれていました。だから、キャンバスに向かって一筆一筆描くよりは、体を動かしながら体感でバランスをとっていけるような制作スタイルが向いていたと思います。粘土は、押したらへこむという身体性が作用する素材なので、自分にはよく合っていると感じます。

もちろん絵を描くのも大好きだったのですが、どちらかというと平面より立体への興味が強かったように思います。小学校のころ、図書館にある工作の本をよく読んでいました。本には、作品が出来上がっていく工程の写真が掲載されていて、それを眺めているだけでもすごく楽しかったですね。

―一方で、宮下さんは、ドローイングもよく描かれていますね。Instagramを拝見すると、そのドローイングをもとに立体に起こしている様子がうかがえます。このスタイルはいつごろから始まったのでしょうか。

写真提供:宮下サトシ

宮下 大学時代の「描く立体」という授業がきっかけとなりました。簡単に言うと、ドローイングをもとに立体を作っていくというものです。

まず、あまり考えないで思いついた形を描きます。次に、その紙を回したりしながら、次の展開を考えるんです。そして見えてきたものをさらに描き進めて、いらないなと思った部分は消す。そうやって、キャラクターのようなドローイングを100枚くらい描きました。当時の僕は、80年代に流行した、ニュー・ペインティングという絵画のムーブメントに影響を受けていました。学生時代の作品には、激しい筆致や鮮やかな色彩などに、それらの影響が表れていると思います。

アニメーション研究を経て、次の展開へ

《parade》(2017年)
大学卒業後に制作したアニメーション。
手書きのイラストレーションを背景に、キャラクターたちがメタモルフォーゼを繰り返していく。
写真提供:宮下サトシ

ー卒業後は、アーティストとしての活動を続けながら、1年間アニメーションの学校にも通われたそうですね。アニメーションは、宮下さんの作品を語るうえで外すことのできない要素だと思います。アニメーションへの興味関心はどういったところからきているのでしょうか。

宮下 アニメーションは幼いころから大好きで、とくにアメリカの1930年代~60年代のカートゥーンをよく見ていました。当時のアニメーションは、キャラクターが絶え間なくメタモルフォーゼを続けるようなものが多く、現代のアニメーションを見慣れた僕からすると新鮮で面白く感じました。お気に入りは、ディズニーのライバルといわれていたフライシャー兄弟の作品です。『ポパイ』、『ベティ・ブープ』などが有名です。

当時は技術競争があり、撮影にもさまざまな工夫がなされていました。たとえば、ガラスを何層にも重ねて、そこに背景画などを重ねることで、自然な遠近感を出す「マルチプレーン」という技法などが使われています。僕が制作したクレイアニメーションもこの技法を使って、背景の平面の動き、キャラクターたちが展開する前景の立体の動きをひとつの画面に融合させています。

宮下  アニメーションを制作した理由は、焼き固めなくていいんじゃないか、と思ったからなんですが、実際に制作してみると、焼き固めた「もの」が目の前にあって欲しいと感じるようになりました。そこで、作品のあり方としての理想が、物体と精神が一体になっていることなのだと気が付いたんです。そこから再び陶芸作品へと集中するようになりました。ただし、アニメーションとのかかわりはそこで終わったわけではなく、形を変えて作品に活かされ続けています。

《わたしはお皿に落書きをしません。》(2018年)
一枚一枚に落書きのようなイラストが連続して描かれており、
パラパラマンガのようにストーリーが展開する。
写真提供:宮下サトシ


《Goblin and Cat》(2021)
壺の曲線や高低を意識して絵付けがされており、鑑賞者の視線をさまざまに誘導する。
多方向にぐるりと回転させることで、ようやくその全貌が明らかになる。
本作には、 ゴブリンとネコが激しい殴り合いを繰り広げる様子、
その衝撃で家の天井が吹き飛ぶという、非日常のユーモアな世界が描かれている。

作品ページはこちら

―たしかに、これまでの宮下さんの作品を拝見すると、さまざまな表現で、陶芸のなかにアニメーションの要素を見ることができます。最近では、お茶碗に手の動きが描かれた《animation tea bowl》もそういった作品のひとつですね。

宮下 茶道では、お茶碗を回すという動作がありますが、アニメーションも回転することで、複数の絵が動いて見えるという視覚効果が基本にあります。 茶道とアニメーションに「回転する」という共通点を見出した作品です。

《animation tea bowl》(2021)
作品ページはこちら

宮下  茶道というものを考えたとき、僕のなかで「静かなもの」というイメージがありました。もともと禅宗の僧侶が持ち込んだものがきっかけになっていますから、禅や瞑想、精神統一のようなイメージが先行したのかもしれません。雑念を振り払って目の前のものに集中することや、己に没入していくような感覚を表現したいというのが、この作品のコンセプトのひとつです。また、茶碗という「静」のイメージのものなかに、あえて「動」の要素を入れることも意識しました。器に内と外があるように、物事には二面性があるということを常に感じています。

《vortex tea bowl1》(2021)
作品ページはこちら

宮下 最新作の茶碗《vortex tea bowl1》では、より没入感を出すように、器全体に渦巻き状の形状を取り入れました。中心に向かって、飲み込まれていくようなイメージです。 

僕は茶碗にもビビッドな色彩を使っているので、嫌悪をされる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、いわゆる「アースカラー」と呼ばれる色以外にも、自然界には虫や花などにカラフルなグラデーションがたくさん存在しているんです。

ひとくちにお茶道具といっても、一般的な「わび・さび」以外にも方向性はあると考えています。そういった部分で、自分の世界観を表現していきたいですね。

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【お知らせ】

2021年11月21日(日)〜23日(火・祝) 、宮下サトシ氏が参加するアートイベントを、下記のとおり開催いたします。ぜひお越しください。

イベント概要

「HANEDA ART EVENT ―アート×茶会の新しい形 ―」

 約450年前、時の天下人・豊臣秀吉が開催した北野大茶湯という空前絶後の大茶会。千利休や古田織部など著名な茶人や茶器が一堂に並び、身分に関係なく1,000人を超える人々が参加したとされる画期的な茶会です。

当時の茶会は現代のサロンでした。日本的美意識の本質を表現するフォーマットとしての「新しさ」を備えていた茶会は、時代を変革してきた者たちを吸引し、交流する場を形成していたのではないでしょうか。

そのような系譜を踏まえ、B-OWNDとHARTiは、現代にふさわしい「新しい形のアート×茶会」のイベントを、先端と文化を発信する羽田イノベーションシティにて開催します。

参加アーティストは計9人。陶芸/ガラス/硯/華/映像など多種多様な作品が5つの展示室に一堂に並びます。さらには、茶の湯文化のスタートアップ企業・(株)TeaRoomの代表および茶人でもある岩本宗涼が参加アーティストの茶器にてお茶を立て、お客様をもてなします。(※新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、お茶のご提供は20日の完全招待制のみとなります。ご了承ください。)

また、一般公開日にて、企業や個人の理念を言語化するプロフェッショナルである加来幸樹氏によるワークショップを開催し、個人の理念を言語化した上で、会場に展示されるアートと自己の共通点を見出すイベントを行います。

アート・工芸作品が映像、華、テクノロジーなどと相互に混ざり合うことで生まれる斬新な茶室空間を通じて、日本的美意識や精神性を可視化します。置かれている立場や当たり前とされる価値観は関係なく、様々な人が交流するアート茶会を目指しています。

開催期間 2021年11月21日(日)〜23日(火・祝)

     VIP招待日(完全招待制):20日(土)

     一般公開日:21日(日)〜23日(火・祝)

     ※理念のワークショップ開催:21日(日)・23日(火・祝)

開催時間 11:00~19:00

会場   〒144-0041 東京都大田区羽田空港1丁目1−4 

     羽田イノベーションセンター ゾーンE

     アクセスはこちら

参加アーティスト

市川透、氏家昂大、古賀崇洋酒井智也、名倉達了、奈良祐希ノグチミエコ 、前芝 良紀、 宮下サトシ横山玄太郎

主催   ㈱丹青社・B-OWND /  ㈱HARTi

・ワークショップ

会期中、ワークショップを開催いたします。

企業理念や個人理念など覚悟の象徴となるアイデンティティの共創/言語化を行う加来 幸樹氏によるワークショップです。

参加者は、当日専用シートを使って加来氏と共に個人の理念を言語化していただきます。そこで言語化した自身の生き方や考え方の指針となる個人理念を元に会場で展示されている様々なアート作品の共通点や相違点などを探して頂きます。

アート作品のコンセプトやアーティストの生き様と個人理念が重なる作品に出合えるかもしれません。イベントを通じてアートの新しい鑑賞体験をご提案します。

開催日  21日(日)・23日(火・祝)

各日2回開催(13:00・16:00)

各回15名 ※事前申し込み制・先着順

※満席となりました。たくさんのお申込み誠にありがとうございました。

参加費  無料

問い合わせ先  B-OWND事務局 info@b-ownd.com

主催 B-OWND・HARTi

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