茶道家・岩本宗涼氏に聞く!茶碗コレクションのススメ
高校時代に初めてお茶碗を購入して以来、世界各国のさまざまな茶道具を蒐集されています。
今回の記事では、お気に入りのお茶碗コレクションをご紹介いただきながら、
お茶碗選びのコツや楽しみ方についてお話しを伺いました。
PROFILE
岩本宗涼
1997年、千葉県生まれ。裏千家での茶歴は15年を超え、現在は株式会社TeaRoom代表取締役を務める。サステイナブルな生産体制や茶業界の構造的課題に対して向き合うべく、静岡県本山地域に日本茶工場を承継。2020年9月には裏千家より茶名を拝名。一般社団法人お茶協会が主催するTea Ambassadorコンテストにて門川京都市長より日本代表/Mr.TEAに任命されるなど、「茶の湯の思想×日本茶産業」の切り口で活動中。
お茶碗はどうやって選べばいい?
―さっそくですが、茶道やお茶碗についての知識があまりないなかでも、自分に合ったお茶碗を選ぶためのアドバイスはありますか?
岩本 そうですね。私自身は、そのお茶碗との何かしらの縁を感じたときに購入してきましたが、もうひとつは、見た目の好みで決めてしまっていいと思います。そのお茶碗と出会ったとき、その瞬間に欲しいと思ったり、あるいは自分の人生に取り入れてみたいと思ったら、それがいいタイミングです。
岩本 たとえば、この宮下サトシさんのお茶碗は、弊社の社員が一目見て「これがいい」と言って買ったものです。実際にお茶を点ててみると、見た目以上に重量感があり、とても使いやすいものでした。このウェーブの部分が手にぴったりとハマる安定感もいいですね。
岩本 また、酒井智也さんのお茶碗も一目ぼれで購入しましたが、茶会をしたときに皆さんにとても喜んでいただける作品です。熟練の先生方も「すごくかわいいですね」という感じで興味をもってくださいますし、プロダクトの力を感じます。こういった遊びごころある個性的な作品が作られることは、お茶の業界の側からしても本当に嬉しいことです。
1つの茶碗と長く付き合うこと
ー特によく使うお茶碗はどれでしょうか。
岩本 これは萩焼のお茶碗で、以前、高名な先生から譲り受けたものです。
萩のなにがよいかと言うと、使い続けることで「貫入」から色が染み込んでいき、自分の色を作ることができる点です。
この茶碗は、海外にもよく持参し「コーヒーを飲めば黒くなるし、抹茶を入れたら緑色になっていきます」という話をするんです。だんだんと自分の茶碗になっていくのが目に見えてわかるのがとても面白いと思います。この茶碗も、抹茶の緑色がずいぶん染み込んできました。
岩本 アートは、1つの「現在価値」を買うというところがあると思います。萩の場合は、100年間使い続けながら、100年分の価値を作ってみようという概念が成立する茶器です。1つの茶碗を使いながら育てていく、それによって所有者がアートとしての価格を形成していくということを、私はこの茶碗を通してやってみたいと思っています。
「自分のもの」として所有することに意味がある
―ところで、岩本さんが一番初めに購入されたお茶碗はどんなものだったのでしょうか。
岩本 これは、先生に「1ついい茶碗を持ちなさい」と教えていただき、高校生の時に自分で貯金をはたいて買った黒樂の茶碗です。万代屋黒といって、樂家の有名茶碗の写しですね。黒というのは全ての色が集結した色であることを、改めて感じるきっかけになったお茶碗です。
岩本 「これは黒なのか?」という思いもあるのですが、茶室の薄暗いなかだと確かに黒く見えるんです。それぞれの見方で、色すらも想像によって変化するのだと、いろいろな気づきを与えてくれた茶碗ですね。
岩本 茶室での色味という話題で言うと、先日購入させていただいた、加藤亮太郎さんの《織部茶盌》も、自然光の入る茶室でとくに色味が美しく気に入っています。最近よく使っている、とてもいいお茶碗です。
―高校生のときに初めてお茶碗を購入されたとき、実際に所有してみてどんな感想を持たれましたか。
岩本 結局、買っていかないとわからないことがたくさんあるのだと実感しました。借りるだけだと、使っただけで終わりになってしまうからですね。所有していれば、それをプレゼンテーションすることも出来ますし、茶碗の歴史の一時代に、自分の想いがのるというのがいいです。歴史的価値がある有名な茶碗が今もたくさん受け継がれていますが、まさに自分が所有をして、自分の美意識や価値観を次の方へと繋いでいくという文化を持つのが、お茶碗の魅力のひとつだと思います。自分が購入した茶碗を、お子さんとか、次の世代に受け継ぐ楽しみもあるのではないでしょうか。
人生のなかで、「前向きな休息」を与えてくれる一服を
―最後に、岩本さんが考える、日常の中の一服の価値はどんなものでしょうか。
岩本 何かをサボったり逃れたりするためではなく、しっかりと自分自身と向き合うために一服のお茶を点てること。それは、人生において、とても前向きな一服で、有益な休息です。茶碗を1つ持つことは、自分の人生や生きる姿勢を、その茶碗を通して考えていく機会を持つことでもあります。
自分の気に入った茶碗を、人生の相棒のように考えるのはいかがでしょうか。長く一緒に時を過ごしながら「前向きな休息」のひとときを過ごしてほしいと思います。
【おしらせ|アーティストが手掛けるお茶碗を特設サイトにて販売!】
慌ただしい日常のなかで、ほっと一息つくお茶の時間は大切なもの。
あなたにとっての至高の茶碗で、日々の休息を「味わう」ひと時を過ごしてみませんか。
【期間】
2022年6月3日(金)~8月4日(木)
【参加アーティスト】
市川透、加藤亮太郎、酒井智也、高橋奈己、
ノグチミエコ、松林豊斎、宮下サトシ、山浦陽介、横山玄太郎
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