箏とEDMが生み出す日本発のクリエイティブ集団 TRiECHOES(トライエコーズ)というムーブメントのはじまり (前編)

各種SNSの動画再生総数約1億2000万回。YouTubeチャンネル登録者数約28万人。
TRiECHOES(トライエコーズ)は、この快挙をたった2本の動画で成し遂げた。
今回、リリースされた第三弾の作品では、B-OWNDに参画する陶芸家・古賀崇洋とのコラボレーションが実現。


一人の若者の挫折から生まれた箏の音のエンターテイメント。
いつの時代も新しい革命は若者の情熱と行動から生まれる。
日本の伝統文化にとどまらず世界の音楽シーンに一石を投じるTRiECHOESのパフォーマンスに今、世界中の人びとが魅了されている。


しかし、その正体を知る者はいない。
彼らは一体、何者なのだろうか。その知られざる実像にB-OWNDが迫りました。
文:B-OWND
写真提供:Helzen

PROFILE

TRiECHOES(トライエコーズ)

箏パフォーマンス集団。 2019年彗星の如く現れ、第一弾のMVを公開。ダンスミュージックと伝統和楽器という決して交わることのなかったエレクトリックなサウンドが高く評価され、YouTube上で1300万回以上の再生を突破。その他のSNSメディア等を含めるとこれまで1億2千万回以上再生されている。2020年3月には、陸前高田市の震災被害の大きかった防潮堤の周りに、最新VFXで桜を満開に咲かせたMVを公開している。   You Tube >> こちら

挫折を乗り越えて鳴り響く箏の音

―― 本日はB-OWNDMagazineのインタビューに応じてくださり、ありがとうございます。昨年、突如として現れたTRiECHOES(トライエコーズ)に今、世界中が注目しています。

たった2本の動画にもかかわらず、YouTubeやTikTokなど各種SNSで再生回数約1億2000万回。YouTubeチャンネル登録者数約28万人。圧倒的に質の高い映像から流れる「箏×EDM」に一瞬で引き込まれる。今回、陶芸家・古賀崇洋さんとコラボレーションした第三弾の作品にも衝撃を受けました。

【第三弾 TRiECHOES×陶芸家・古賀崇洋】

Helzen はじめまして。TRiECHOESのクリエイティブ・ディレクター兼プロデューサーのHelzen(ヘルゼン)です。この度は、TRiECHOESのインタビュー本当にありがとうございます! 初のインタビューでちょっと緊張していますが、何でも聞いてください。

―― ありがとうございます。まず、仮面を付けていてビックリしたんですが、映像に登場する狐の仮面を被ったM-FOXさんとは同一人物なんですか?

Helzen M-FOXではないですよ(笑)。仮面の色が違いますよね?

―― ははは、なるほど。ところで、インターネットのどこを探しても、TRiECHOESの公式情報は見当たらないですよね。一切が謎に包まれていて、TRiECHOESとは何者なのか。どういったストーリーから生まれたチームなのか。ずっと気になって仕方ありませんでした!

Helzen そうですよね。TRiECHOESのはじまりは、僕の大きな挫折に関わってくるので、個人的な話になりますが、大丈夫ですか?

―― もちろんです。差し支えなければ、ぜひ教えてください!

Helzen ありがとうございます。TRiECHOESは元々、高校時代に筝曲部で一緒だったメンバー3人で結成し、2019年から活動をスタートしました。名前は第一弾の動画に登場する三人の奏者をイメージして直感的に付けました。ただ、TRiECHOESは、三人のほかにも映像制作やアートディレクションなどのクリエーター集団から成り立っています。

―― 第二弾の作品では、作品に携わっている方たちの名前がエンディングで流れていましたよね。

Helzen はい。今、こうして制作活動に没頭できる環境があるのは、TRiECHOESのクリエーター、陰ながら活動を支援してくださった方たち、そして視聴者のみなさんのおかげです。

―― TRiECHOESが誕生するまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

Helzen 学生の時、グローバルな舞台で社会課題の解決に携わりたいと考えていたので、国際機関で働くことを目指していました。中東の紛争解決学を専門に学んだり、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんが創設したグラミン銀行でインターンしたりしていたんです。

―― 現在の活動とは全く印象が違いますね! 大学を卒業してからすぐにTRiECHOESをスタートさせたんですか?

Helzen 卒業してすぐは、実は全く違う業界にいたんです。国際機関で働くことを考えたときに、専門性が必要だと考えて、会計系のコンサルティングファームに就職しました。そこで、公認会計士になるための学習プログラムを受講していたんです。

ただ、それが本当にきつかった。(笑) 元々机に向かって勉強するのがそこまで得意ではなかったのですが、毎日誰とも喋らずに10時間以上勉強する生活が2年ほど続いて、精神が徐々にすり減っていきました。

合格のプレッシャーも相まって、どんどん追い込まれていったある日、ぷつんと心が折れてしまったんです。体調も悪くなって、医師からは「今すぐ休職しなさい」と言われてしまいました。あまりにも不甲斐ない自分の姿に絶望していましたね。

―― そんなに苦しい時期があったのですね。

Helzen 休職してからは、ひたすら家でYouTube等の動画を見ながら過ごしていました。朝まで動画を見て、夕方に起きて、深夜に松屋で一人で酒を飲むみたいな荒んだ生活をしてました。

2ヶ月くらい経ったとき、さすがにこのままではやばいなと思って、少しずつ動き始めました。変なメディアを作ろうとしたり、転職活動をしたり……。そのなかで、カフェでコーヒーを飲んでいるときに、たまたまひらめいたのが、箏とEDMをかけ合わせることだったんです。

当初はお金になるとはまったく思っておらず、単純に面白そうだから「とにかくやってみるか!」という感じでスタートしました。

「面白い」が周りを巻き込む

―― 論理的な計画ではなく、直感的な想いをカタチにする。何もないゼロの状態にあって、Helzenさんは何から始めたのでしょうか。

Helzen その場ですぐに高校時代の筝曲部だった仲間に電話をかけました。みんな、「いきなりどうした!?」と驚いていましたが、アイデアを共有すると、すぐに面白いと賛同してくれて、とりあえずやってみることになりました。

最初はPerformerのSaraiと2人で箏にLEDテープをつけて、YouTubeに落ちてるフリー音源に合わせるところから始めました。光るサングラスをかけて踊ったり、とにかく何でも試しました。今思えば、めっちゃダサいですよね。

そして、それをiPhoneで撮って、いろいろな人たちに見せていきました。そのときは、何かに繋がればいいかなくらいにしか思ってなかったですね。

結成直後にiPhoneで撮影した映像の一場面

―― みなさんの反応はどうだったんですか?

Helzen ほとんどの人たちが笑っていましたね。「箏なんてだれが見るの?」という感じで……。自分のなかでは、これなら絶対に世界でバズると思っていたのですが……(笑)

ただ、ダサいiPhoneの映像をみて、一人だけ「やってみなよ」と応援してくれた方がいたんです。その人は会計の勉強を教えてくれていた講師の方で、「君は、この業界にはいないタイプだから頑張れ!」と、いつも僕を励ましてくれていた方でした。

その映像を見せた後に「転職しようと思っている」と相談したら、「もったいない! 折角なら思い切ってやってみたほうがいい!」と言ってくれて、経済面のバックアップまでしてくださいました。今でもお世話になっているのですが、本当に感謝してもしきれません。

―― 素晴らしい出会いですね。Helzenさんの「面白いことをやろう」という想いが渦を巻いて、次々と仲間を巻き込んでいく感じはアニメの主人公みたいですね!

Helzen 映像を制作するなかで面白いという感情だけでなく、「絶対にこれはすごいことになる」という想いが生まれてきました。そして、第一弾の映像を公開すると、瞬く間に再生回数が伸びた。しかも、8割以上の視聴者が海外の方たちだったんです。一作目からTRiECHOESのパフォーマンスを世界中のもの凄い数の人たちに届けることができました。

【第一弾 TRiECHOES】

「箏×EDM」のエンターテイメントとして純粋に勝負したい

―― 挫折を乗り越えて鳴り響く「箏×EDM」。これまでには考えられなかった快挙だと思います。Helzenさんが箏に注目したのは、やはり「伝統和楽器」という日本ならではの文脈があったからなのでしょうか。

Helzen 「伝統和楽器を広めてくれてありがとう」と言われることが多いのですが、僕たちは伝統和楽器を広めるために箏を選んだわけではないんです。世界に通用するためには、箏が最大の武器になると思って選びました。

様々なエンターテイメントが飽和した現在の世界に日本から一石を投じるためには、箏のようなまだ世界に定義が存在しない日本固有のエンタメしか通用しないと思っているんです。

もし、私たちがバンドでShape of youをカバーしてたら、同じ映像のクオリティーだったとしても、だれも見なかったと思います。すでに同じようなことをやっている方が世界中にたくさんいるので……。

箏だから見てもらえた。世界でまだだれも見たことがない、世界に定義が存在しないものだから、みんなが面白がって見てくれた。ここに箏や伝統和楽器の可能性があると思っています。

―― なるほど、面白い視点ですね。Helzenさんから見て、それだけ可能性がある現在の伝統和楽器の世界についてどう思われますか?

Helzen 現在の伝統和楽器は歴史的なブランドに頼りすぎている気がします。見る人からしたら、伝統文化かどうかは関係ない。その他のエンタメは、最新の映像やCG技術などをどんどん吸収して、総合エンターテイメントとして勝負しています。

和楽器も伝統という文脈に頼らずに、総合エンターテイメントとして見られるものじゃないと生き残っていけないと思います。そういう意味で、僕たちが制作するときも、単純にエンタメとしてクオリテイが高いものなのか、見ていてワクワクするものなのかを強く意識しています。

―― たしかに、「お箏」といえば、どこか古き良き時代の音色として聞こえてきそうなイメージがあったのですが、TRiECHOESの映像で流れる「箏×EDM」は、陳腐な表現かもしれませんが、とにかくカッコイイ! そこには、日本の伝統的な文脈や価値観を背負わせるようなものはなく、エンターテイメントとして世界に開かれていたようにも思います。

Helzen 高尚な設定などは一切せずに、純粋なエンタメで世界と勝負したかったんです。ただ、世界的なエンターテイメントに比べると、まだまだクオリティは低いと思っています。今は箏のモノ珍しさで注目されている部分が大きい。エンターテイメントとして圧倒的な作品を生み出せるように、TRiECHOESは挑戦し続けたいと思っています。

―― 私たちも西洋文明から捉えたアートの世界から工芸の価値を語るのではなく、日本のアーティストと作品の精神性を根幹に勝負したい。音楽と工芸で畑は違えど、同じ大地の上にいると思っています。今後、TRiECHOESというムーブメントが何を創造していくのか。次回は、クリエティブの領域だからこそ実現できる社会との向き合い方について伺えればと思います。

>>TRiECHOES(トライエコーズ)というムーブメントのはじまり (中編)はこちら<<

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