陶芸の基礎知識 陶芸の基礎知識 ―陶磁器の種類と特性、産地―
わたしたちの暮らしのなかに、豊富に存在する陶磁器。
陶芸とは、粘土などを成形・焼成することで陶磁器をつくる技法・技術をいいます。
古くから日本各地では豊かな陶磁器文化が育まれてきました。
B-OWNDに参加している陶芸アーティストたちも、この長い歴史の上に独自の世界を展開しています。
今回は日本における陶磁器の種類や特性、代表的な産地を紹介していきます。
カバー写真 木村雄司
陶器、炻器、磁器とは?
一般に「やきもの」は、素地の原料、表面を覆うガラス質の釉薬(ゆうやく)の有無、焼成温度の違いなどによって、土器、陶器、炻器(せっき)、磁器に分類されます(欧米、東アジア、日本で分類の基準が異なるため、ここでは日本における基準を使用しています)。
土器は無釉(釉薬を用いない)、低温で焼成されるやきものです。給水性が高く脆い一方で、耐火性の高さが特徴です。例として素焼きの植木鉢や縄文土器・弥生土器が上げられます。
陶器は施釉をした上で焼成されるやきものです。素地は有色、吸水性があります。陶器の食器を使う前にぬるま湯等に浸けるのは、あらかじめ吸水させることで料理を盛った際の汁等の染み込みを防ぐため。吸水性の高さゆえの工夫です。陶器には益子焼や唐津焼などがあります。
炻器は、日本では無釉で焼締めた陶器をさします。素地は有色、備前焼や常滑焼、信楽焼等がそれに当たりますが、広義にはこれらも陶器に含めます。
磁器はガラス質を多く含み、高温焼成によりガラス化の進んだやきものです。素地は白色で、ガラス質のため透光性があります。密度が高く薄手で硬質、吸水性はほとんどなく耐久性があります。代表的なものに有田焼や九谷焼が上げられます。
陶器と磁器の境―ガラス化
広義の陶器と磁器を区分するものは「ガラス化」です。『やきものの鑑賞基礎知識』(矢部良明編)では、「陶器と磁器との違いは技術革新の延長線上にあるものであるため、区別がはなはだ難し」く、一応の目安は「ガラス化が極めてすすんでいるもの」を磁器としています。そして、「ボディ」が粘土の状態で、その上にガラス質である釉薬がかかっているものが陶器、一方、粘土がガラス化しているボディの上にガラス質の釉薬がかかっている、つまりボディ、釉薬ともにガラスに近づいているものが磁器である、と説明しています。つまり、陶器と磁器の区分は、ガラス化に必要な材料の割合の違いにあり、ガラスとやきものは極めて近い関係にあるといえます。
陶器の主な原料は陶土(カオリン粘土の総称)で、土物(つちもの)と呼ばれます。粘土がもつ、水を加えて練ることで生じる粘性は、成形、形態の保持を可能にします。しかし、それだけでは乾燥時、焼成時の収縮率が高くなり、ひび等を生じさせる可能性があります。そのため、適度な粘性を維持しながら収縮率を抑えられるよう、製作するものに応じて、珪石(けいせき)や長石といったガラス化に必要な材料を混合します。ガラス質の釉薬と、ボディの陶土の収縮率の違いは、釉薬に貫入(細かなひび)を生じさせ、それが味わいを生み出すという効果ももたらします。
磁器の原料は磁土とも表現され、陶石、カオリン、長石、珪石(けいせき)といったガラスの材料となるものなどが原料となります。土物の陶器に対して石物(いしもの)と呼ばれるように、陶器に比べて粘土の割合が低くなっています。
日本でよく知られている陶土には、岐阜県瑞浪(みずなみ)地方や愛知県瀬戸地方に産出する木節(きぶし)粘土、同じく愛知県瀬戸地方や岐阜県多治見地方、三重県島ヶ原地方に産出する蛙目(がいろめ/がえろめ)粘土などがあります。蛙目粘土の「蛙目」とは、粘土中に含まれている石英が蛙の目のように見えることから付いた名前です。陶石では、17世紀初めに佐賀県有田町で発見された泉山(いずみやま)陶石、熊本県天草郡の天草陶石などが知られています。古来陶磁器の産地となってきた地域は、良質の陶土、陶石等の産出、流通エリアと重なっています。
日本の陶磁器の産地
陶磁器の産地は日本各地にあります。経済産業省が指定する「伝統的工芸品」になっているものだけでも、その数32。長い歴史の中で陶磁器の技法と表現が磨かれ、各地の産業、文化として育まれてきたことがわかります
ちなみに、伝統的工芸品に指定されるためには以下の要件を満たしている必要があり、大規模かつ機械化された陶磁器産業などはこれに含まれません。
(1) 主として日常生活の用に供されるもの
(2)製造過程の主要部分が手工業で製造されていること
(3)伝統的技術または技法によって製造されていること(その技術・技法が100年以上の歴史を有し、今日まで継続していること)
(4)伝統的に使用されてきた原材料を用いていること(その原材料が100年以上の歴史を有し、今日まで継続していること)
(5)一定地域で産地を形成していること(原則として10企業、または30人以上の従業者の規模を有していること)
B-OWNDにも、各地の陶磁器文化を背景にもつアーティストが参加しています。
たとえば加藤亮太郎さんは、美濃焼の窯元である幸兵衛窯8代目。奈良祐希さんは、その作品は極めて現代的かつ構築的な磁器によるものですが、出自は加賀・大樋焼本家です。市川透さんは備前焼をベースに、イタリアへの留学経験のある高橋奈己さんも、新たな表現を切り開いています。
豊かな陶芸文化の土壌の上に、独自の世界観を展開するB-OWND参加アーティストたち。今後も多彩な作品を紹介していきます。ご期待ください。
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参考資料
経済産業省「伝統的工芸品指定品目一覧[都道府県別](令和元年11月20日現在)」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/pdf/densan_shitei191120.pdf(2020年3月26日参照)
日本セラミクス協会「日本のやきもの:分類」
http://www.ceramic.or.jp/museum/yakimono/contents/bunrui.html(2020年3月26日参照)
日本セラミクス協会「日本のやきもの:詳細」
http://www.ceramic.or.jp/museum/yakimono/contents/genryou.html(2020年3月26日参照)
日本セラミクス協会「日本のやきもの:産地」
http://www.ceramic.or.jp/museum/yakimono/contents/sanchi_list.html(2020年3月26日参照)
大阪市立東洋陶磁美術館「鑑賞の手引き」
http://www.moco.or.jp/intro/guidance/(2020年3月31日参照)
六古窯日本遺産活用協議会「旅する、千年、六古窯」
https://sixancientkilns.jp/about/(2020年3月26日参照)
佐賀県立九州陶磁文化館『土と炎―九州陶磁の歴史的展開』(九州陶磁文化館固定展示室ガイドブック)2015 佐々木英憲(監修)
『すぐわかる産地別やきものの見わけ方(改訂版)』 東京美術 2010 矢部良明(編)
『やきものの鑑賞基礎知識』 至文堂 1993