アート茶会 「アート茶会」のススメ|自身を見つめなおすアートイベント(後編)
この企画にあたり、B-OWNDプロデューサー・石上賢とともに、
2名のゲストお迎えして「お茶会 × アート」についての鼎談を行いました。
PROFILE
岩本宗涼
1997年、千葉県生まれ。裏千家での茶歴は14年を超え、現在は株式会社TeaRoom代表取締役を務める。サステイナブルな生産体制や茶業界の構造的課題に対して向き合うべく、静岡県大河内地域に日本茶工場を承継。2020年9月には裏千家より茶名を拝名。一般社団法人お茶協会が主催するTea Ambassadorコンテストにて門川京都市長より日本代表/Mr.TEAに任命されるなど、「茶の湯の思想×日本茶産業」の切り口で活動中。
加来幸樹
1983年、福岡県生まれ。株式会社サインコサイン代表取締役。セプテーニでのデジタルマーケティング部門のクリエイティブ職を経て、2018年にサインコサインを設立。「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」という信念を掲げて、企業や個人の理念、ブランドのネーミングやタグラインなど覚悟の象徴となるアイデンティティの共創をはじめ様々な価値提供を行う。また、それぞれの理念の重なりの認識を通じた、より良いパートナーシップの動機形成にも取り組んでいる。
石上賢
1992年、愛知県生まれ。B-OWNDプロデューサー。画家の父、画商の母の元に生まれる。国内芸術家の経済活動の困難さを目の当たりにし、10代からアート作品の販売、大学在学中よりアーティストのプロモーション活動を開始する。これまでに50を超える展覧会の企画に携わる。2019年、アート・工芸×ブロックチェーンのプラットフォーム「B-OWND」を立ち上げる。
自身を見つめなおす場としての「お茶会」はどうか
加来 今回のイベントの構想はどんな感じなんでしょうか?僕のイメージとしては、コンテンツとしてワークショップなどがありつつ、茶の間があり、訪れた人が誰でも席に着けて、話をしながらお茶もふるまわれる。周りにはアート作品があって、触れたり、買ったりすることができる、というようなものなんですが。
石上 イメージはそうですね。お茶をめぐる内容として、僕は二軸あると思っています。
ひとつはコミュニケーション、もうひとつは、自分自身と向き合う時間です。禅じゃないですけど、日常とはちょっと切り離したような時間を過ごすことです。
たとえば、はじめは 「サロン的な場」 でお茶をいただきながらコミュニケーションをするけれど、あとで別の場に移動して、内容をアウトプットする時間を持つとか。それは、今回加来さんにお願いしたいと思っているワークショップや、作品と触れ合う時間が重要になってきそうです。それがダイアローグなのか、モノローグなのか、どっちかはまだ決めていませんけどね。
加来さんは普段、企業や個人の理念をつくるお手伝いをされていらっしゃるじゃないですか。それって、理念が決まったときはもちろん高揚感があるんだけど、じゃあすぐに定着するかどうかといったら、きっとそうじゃない。決めたことを常に意識し続けることも必要だろうし、改めてその内容をぐっと詰める時間が必要なんじゃないかな。もしアート作品がその場にあったら、その理念を見つめなおすひとつの助けになるでしょうね。ある種、瞑想行為のような感じかもしれない。
加来 それはすごくいいですね。僕、陶芸家の酒井智也さんの作品を持っているんですけれど、作品を通して彼の思想に触れたことで、「あぁ、自分の思想ってこういうことだったのか」みたいな気づきがあって。今回のイベントでも、ただ見るだけではなく、その背景にあるアーティストの思想も感じられるような展示になったらいいですね。
石上 僕最近、仕事に追われたとき、いったんサウナに行くんです(笑)。ちょっと落ち着いて、見つめなおそう、と思って。でもそういう場って、サウナだけじゃないはず。その新しいやり方を、僕自身も見つけてみたいと思っているんですよ。
そのひとつとして、「いついつまでになになにしなきゃ」という、実務を離れたところで、加来さんのように言葉のプロとして活躍されている方と対話する機会があればいいなって。
加来 そう考えると、今回のイベントのポイントは、ある種、一瞬途中で立ち止まって、どっちに歩いて行こうかなと再考するようなきっかけがあるところなのかもしれませんね。
石上 めちゃくちゃいいですね。僕の友人も、大企業で働いている人が何人もいるのですが、彼らは結構悩んでいて。一方、スタートアップやフリーランスの友人たちの方が悩んでいなかったりする。その差ってなんだろうと考えると、やっぱり自分で決めてるか、決めてないかという点かなと感じています。
岩本・加来 なるほど。
石上 じゃあなぜ自分で決められないのかとなったときに、やりたいことやその軸が言語化できているか、いないかが大きいのではないかな。そして、それ以前に、決めるための原体験のようなものを、意識できていないのだと思います。
僕は、今アートをやっている理由として、「もうこれをやらざるを得ない」という体験がいくつもありました。そして、その体験で心が動いた瞬間に、やっと言語化しようと思い、それを繰り返してきたんです。
そういうことを、このお茶会というイベントで本当に作りだせるかはわからないですけど、そのためのいろんな仕掛けを考えられたらいいなと思います。
石上 まず心を動かす何かを体験してもらい、「なぜ心が動いたんだろう?」というのを振り返って言語化する。さらにもう一度その場から離れて、「それって本当にこれで合っているのかな?」と確かめて、またその場に戻る。これはイメージですけど、そんなことができたらと考えています。
岩本 いいですね。
さっきちょっと話題として挙がった、「○○道 (どう) 」の「道」の思想って、固く定義されるのですが、結局は振り返ったときに、指針であり、帰る場所であるということなんです。
お茶の場合は、毎日お茶を飲むタイミングにおいて、自分たちの道(みち)を振り返るというか、脳をシフトするところがあるので。
今回のイベントで、言葉をなにかしらのものにしたり、ものに落としこんでそれを言葉とリンクさせた状態で、購入した作品を毎日ちゃんと見るところに置いてくださいとか、そういったコミュニケーションをとれるのはすごくいいことですよね。この茶器を見たら、当日のイベントでディスカッションした内容や、話した自分の道(みち)ってものを振り返れるようにするっていうのは、すごく意味があるものになると思いますよ。
時世に合わせた茶会が超重要!
石上 以前、工芸史がご専門の前崎信也先生と対談させていただいたのですが、アートというのは、もともと「新しい技術」を意味するものであったと。新しいもの、変わり続けていくものこそがアートであったというお話を伺いました。
それは、現在伝統とされているものも、最初は革新だったということだと思いますが、守るために固定していくと、結局は腐っていってしまう。人々の生活がどんどんと変化しているのに、工芸だけ変わらないでいれば、どんどんズレが生じてしまって、だれも興味を持てなくなっていく。そういう意味で、新陳代謝が必要だと思います。
石上 もちろん、先ほど岩本さんがおっしゃったような「日々に感謝する」というような精神的な部分はそのままに、変えてもいいでしょうという部分は変えていくという、絶妙なバランスが作れたらいいなと思うんですよね。
岩本 絵画だとわかりやすいですよね。アートの評価は、時世によって違いがありますし。例えば、バンクシーのような作品が戦時中にあっても、評価がつかなかったでしょう。
加来 この時代だから、その問いかけに価値があるみたいなことですね。
石上 そうなんですよ。時世に合わせるっていうことが、まさしく超重要だと思っています。B-OWNDは、「工芸は変わらない」と思われていたことに対して、アートの要素がある人たちばかりをキュレーションしています。時世に合わせた表現を、工芸のフォーマットでやっている、ということです。
でも、勝負しすぎて型が崩れてしまったらいけないなという迷いもあるんですよ。茶会に関しても、バランスが難しいです。
岩本 まあでも、茶会はわかりやすいですよ。機能的価値がそれぞれあるので、それさえ満たしていれば文句は言われないはずです。フォーマットのなかで機能別に分けていくときに、機能の表現って別になんでもいいでのす。そういうロジックは通用する。
加来 茶の間の“間”は“あいだ”っていうくらいなので、中庸な感じはありますよね。なにかを論破する場所ではないんだろうから。
石上 僕らの世代は、もちろん「絶対に成功してやる」と鼻息が荒い人たちもたくさんいますけど、それよりもSDGsなど、「みんながいいほうがいいよね」っていう感覚を持っている人が多いと思います。資本主義なんだけど、競争の場でオラオラしているのではなくて、志というか、大きなベクトルの方向性が同じというか。
でも、みんな個性も違うから、共同体みたいなものができたらいいなと思っています。そう考えたとき、お茶会がそういった役割を果たせるのかもしれませんね。
岩本 それでいうと、ひとつの目的に対して、全員のやっていることが手段となりうるみたいなところが、最近は盛んになってきていると思います。 僕は普段、いろいろな企業さんの課題を一緒に考えているのですが、結局、プロダクトとして出てくるものって、課題から引き出していくと要件が全部同じなんです。
それは、課題がグローバル化して、全員に共通したからだと思っているんですよ。たとえば気候変動は、全員が意識しなければいけないし、SDGsなんて、もう領域関係なく全員が対応しなければいけなくなっていますよね。
共通の課題ができたから、みんなが手段として、それぞれの役割を演じられるようになったっていうのは本当におもしろいなと思います。それが共通の課題であることを、世界というプラットフォームによって気が付けるという状態にあるということだから。
加来 たしかにそうですね。それでもまだ重なっている役割はまだいっぱいあるんだろうなと思いつつ、最近はだいぶ「これはこの人に任せて自分はこれやろう」というふうにやりやすくなったのではないでしょうか。このお茶会が、そういうことを認識しあうような場にもなればいいなと思いますね。
石上 いいですね!
岩本 わくわくするなぁ。
【イベント概要】
「HANEDA ART EVENT ―アート×茶会の新しい形 ―」
約450年前、時の天下人・豊臣秀吉が開催した北野大茶湯という空前絶後の大茶会。千利休や古田織部など著名な茶人や茶器が一堂に並び、身分に関係なく1,000人を超える人々が参加したとされる画期的な茶会です。
当時の茶会は現代のサロンでした。日本的美意識の本質を表現するフォーマットとしての「新しさ」を備えていた茶会は、時代を変革してきた者たちを吸引し、交流する場を形成していたのではないでしょうか。
そのような系譜を踏まえ、B-OWNDとHARTiは、現代にふさわしい「新しい形のアート×茶会」のイベントを、先端と文化を発信する羽田イノベーションシティにて開催します。
参加アーティストは計9人。陶芸/ガラス/硯/華/映像など多種多様な作品が5つの展示室に一堂に並びます。さらには、茶の湯文化のスタートアップ企業・(株)TeaRoomの代表および茶人でもある岩本宗涼が参加アーティストの茶器にてお茶を立て、お客様をもてなします。(※新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、お茶のご提供は20日の完全招待制のみとなります。ご了承ください。)
また、一般公開日にて、企業や個人の理念を言語化するプロフェッショナルである加来幸樹氏によるワークショップを開催し、個人の理念を言語化した上で、会場に展示されるアートと自己の共通点を見出すイベントを行います。
アート・工芸作品が映像、華、テクノロジーなどと相互に混ざり合うことで生まれる斬新な茶室空間を通じて、日本的美意識や精神性を可視化します。置かれている立場や当たり前とされる価値観は関係なく、様々な人が交流するアート茶会を目指しています。
開催期間 2021年11月21日(日)〜23日(火・祝)
VIP招待日(完全招待制):20日(土)
一般公開日:21日(日)〜23日(火・祝)
※理念のワークショップ開催:21日(日)・23日(火・祝)
開催時間 11:00~19:00
会場 〒144-0041 東京都大田区羽田空港1丁目1−4
羽田イノベーションセンター ゾーンE
アクセスはこちら
参加アーティスト
市川透、氏家昂大、古賀崇洋、酒井智也、名倉達了、奈良祐希、ノグチミエコ 、前芝 良紀、 宮下サトシ、横山玄太郎
主催 ㈱丹青社・B-OWND / ㈱HARTi
【ワークショップ】
会期中、ワークショップを開催いたします。
企業理念や個人理念など覚悟の象徴となるアイデンティティの共創/言語化を行う加来 幸樹氏によるワークショップです。
参加者は、当日専用シートを使って加来氏と共に個人の理念を言語化していただきます。そこで言語化した自身の生き方や考え方の指針となる個人理念を元に会場で展示されている様々なアート作品の共通点や相違点などを探して頂きます。
アート作品のコンセプトやアーティストの生き様と個人理念が重なる作品に出合えるかもしれません。イベントを通じてアートの新しい鑑賞体験をご提案します。
開催日 21日(日)・23日(火・祝)
各日2回開催(13:00・16:00)
各回15名 ※事前申し込み制・先着順
※満席となりました。たくさんのお申込み誠にありがとうございました。
参加費 無料
問い合わせ先 B-OWND事務局 info@b-ownd.com
主催 B-OWND・HARTi
【おすすめ記事】
おいしい抹茶を簡単に楽しめる方法をご紹介しています。
秋の旬をご紹介しながら、この時期におすすめのB-OWND参画アーティストの作品をご紹介しています。