酒井智也 ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」インタビュー 陶作家・酒井智也(後編)

ARTIST
ウルトラマンシリーズ60周年を記念して、B-OWNDによるスペシャルコラボレーション展が実現しました。本展では、「ポップカルチャー」と「工芸」を融合させ、アーティストたちがウルトラ怪獣の皮膚感や独自の造形美を再解釈し、創り出した作品が誕生しました。 参加した全8名の各アーティストに、ウルトラマンシリーズの「原体験」や制作背景について伺いました。
文章・B-OWND
写真・木村雄司 / 仲信達也

PROFILE

1989年愛知県生まれ。酒井智也は、ロクロ技法を用いて記憶とアイデンティティの関係性を探求する陶芸家です。

彼の制作の原点には、人間が有限な存在であること、すなわち「死への恐怖」があります。やがて消えゆく自己の輪郭を確かめるように、彼は表層的な属性ではなく、深層に沈む感覚や記憶に触れようと試みます。ロクロの回転の中で無意識的に立ち上がる形と、それを意識的に選び取る判断。この往還プロセスを通じて生み出される造形は、既存のカテゴリーに収まりきらない独自のリアリティを放ちます。

酒井の代表的なシリーズにおいては、個人の深層に沈んだ記憶を呼び覚ます〈ReCollection〉、信仰や象徴を特定の文脈から解き放ち神の気配を形にする〈SPIRIT〉、そして文化的情報以前の原初的な感覚を探る〈Archē〉が展開されています。焼成された土という、時間を超えて残るメディウムに刻まれた彼の思考の痕跡は、未来へ向けた「生きた証」として存在し続けます。

ソフビから見出す、怪獣のストーリー

写真提供:仲信達也

― 今回、ウルトラ怪獣の中から具体的なモチーフを選ばれた背景には、どのような理由があったのでしょうか。

酒井 最近、子どもと一緒に遊びに行くと、必ずおもちゃ屋で怪獣のソフビ(ソフトビニール人形)を買うのが鉄板のルートになっているんです。そうやって、日頃から家の中で息子が遊んでいる怪獣たちの中から、僕自身が特に造形として気になった怪獣を今回チョイスしました。

大人になってから、改めてウルトラマンシリーズの作品を観返してみると、単なる怪獣のビジュアルの格好よさだけではなく、その怪獣が生まれた背景にあるストーリーや、人間関係、当時の時代背景が色濃く反映されていることに気づきます。

それが、ものすごく心にグッと刺さる。その、大人の僕の胸に刺さったストーリーと、子どもが純粋に好きな怪獣という二つの視点をベースに、今回のキャラクターを選びました。

― たとえば、「バルタン星人」や「ゴモラ」を選ばれた理由について具体的にお聞かせください。

酒井 バルタン星人に関しては、物語の背景にある「侵略」という重いテーマが、今の混沌とした国際情勢や現代社会のネガティブなイメージと、自分の中でどうしても重なって感じられる部分がありました。ただ、そうした社会の影をも描き出す部分こそが、ウルトラマンシリーズが今なお愛され続ける一つの価値であり、僕が惹かれるポイントでもあったので、その空気感を造形に重ねています。

Heritage series FAM 2026 「バルタン星人」
写真提供:木村雄司

もう一つのゴモラに関しては、純粋に僕たち陶芸家として「なぜか分からないけれど、理屈抜きに惹かれてしまう」という強烈なビジュアルの魅力がありました。大地から力強く湧き出てきたようなあの造形。

今年は家族で何度も万博記念公園に足を運んだこともあって、「もしこの世界線に本当にゴモラがいたら、ここにジョンスン島から運ばれてきていたのかもしれないな」なんていう想像を子どもと膨らませながら、楽しく作らせてもらいました。

酒井智也 ウルトラマン
Heritage series FAM 2026 「ゴモラ」
写真提供:木村雄司

「キングジョー」、そしてロクロが生み出す回転体

Heritage series FAM 2026 「キングジョー」
写真提供:木村雄司

― ロボット怪獣である「キングジョー」もモチーフに選ばれていますね。

酒井 キングジョーに関しては、あのメカニカルで機械的な造形に、僕自身のバックグラウンドがピタッと重なる部分がありました。実は僕、陶芸の道に入る前は、自動車工場で部品を作る仕事をしていた時期があったんです。

そのため、あの工業的で計算されたパーツの組み合わせに親近感を覚えるとともに、僕が普段使っている「ロクロ」という回転体が生み出す造形との、すごく強い親和性を感じました。この機械的な美しさをロクロで表現したらどうなるだろう、という職人的な好奇心から選んだモチーフです。

― 普段の酒井さんの制作スタイルにおいて、一番核となっている「表現の軸」について教えてください。

酒井 僕は、ロクロという回転体を使って、自分がこれまでに見てきた、あるいは体感してきた「記憶の断片」のようなものを形にしています。ロクロの上で土が回転する中で、頭の中にあるごちゃごちゃとしたイメージが混ざり合ったり離れたりしていく。その一瞬の動きをポッと世の中に切り出すような感覚です。

意図的な手仕事の造形と、遠心力による無意識的な造形を、どんどん足したり引いたりしながら、何かのようで何者でもない形を導き出す。その形を通じて、自分自身のアイデンティティや、観る人にとっての古い記憶を呼び覚ますような、そんなきっかけになる作品を目指しています。

これまで時代ごとに少しずつ作風は変化してきましたが、僕の中で「粘土とロクロを使って、自分の記憶の深淵を探る」という本質的な軸だけは、作家になってから一度も手放したことはありません。

写真提供:仲信達也

未来の世代へ、想いを託す

― 今回の挑戦を経て、作品を通じて世の中にどのような対話をもたらしたいと考えていますか?

酒井 今回、怪獣たちのエッセンスだけを抽出して僕の形と組み合わせました。それによって、観る人が「自分にとってウルトラマンや怪獣ってどんな存在だっただろう」と、それぞれの記憶を自由に呼び覚ませるような、そんな媒体物になれたらいいなと思っています。

ウルトラマンシリーズの記憶が、親から子へ、そしてまたその次の世代へと託されていくように、僕の作った焼き物も、百年、千年という長い時間を旅して、誰かの手から手へと受け継がれていってほしい。

自分がこの世からいなくなった後も、作品が世界に広がり、誰かの日常に寄り添いながら、未来の世代へと想いを継承していく道具になってくれたら、作家としてこれほどロマンがあることはないですね。

>>前編はこちら<<


ウルトラマンシリーズ60周年記念「B-OWNDコラボレーション展」

会  期:2026年10月2日(金)~13日(火)
会  場:B-OWND Gallery
〒103-0028 東京都中央区八重洲1-6-1 TOFROM YAESU TOWER 1階
営業時間: 11時~20時

定休日:月曜日

月曜日が祝日の場合は営業し、翌平日に振替休業いたします