箏とEDMが生み出す日本発のクリエイティブ集団 TRiECHOES(トライエコーズ)というムーブメントのはじまり (中編)
TRiECHOES(トライエコーズ)は、この快挙をたった2本の動画で成し遂げた。
今回、リリースされた第三弾の作品では、B-OWNDに参画する陶芸家・古賀崇洋とのコラボレーションが実現。
一人の若者の挫折から生まれた箏の音のエンターテイメント。
いつの時代も新しい革命は若者の情熱と行動から生まれる。
日本の伝統文化にとどまらず世界の音楽シーンに一石を投じるTRiECHOESのパフォーマンスに今、世界中の人びとが魅了されている。
しかし、その正体を知る者はいない。
彼らは一体、何者なのだろうか。その知られざる実像にB-OWNDが迫りました。
写真提供:Helzen
PROFILE
TRiECHOES(トライエコーズ)
箏パフォーマンス集団。 2019年彗星の如く現れ、第一弾のMVを公開。ダンスミュージックと伝統和楽器という決して交わることのなかったエレクトリックなサウンドが高く評価され、YouTube上で1300万回以上の再生を突破。その他のSNSメディア等を含めるとこれまで1億2千万回以上再生されている。2020年3月には、陸前高田市の震災被害の大きかった防潮堤の周りに、最新VFXで桜を満開に咲かせたMVを公開している。 You Tube >> こちら
なぜ、第二弾の発表までに1年をかけたのか
―― 第一弾の動画が世界中で再生されて、ファンたちは次回作をもの凄い楽しみにしていたと思います。TRiECHOESはなぜ、第二弾の発表までに1年という時間をかけたのでしょうか?
【第二弾の作品】
Helzen 本当に多くの方たちから「早く出して欲しい」と嬉しいコメントを頂きました。なかには、「一体いつ出すんだ!!」という怒りにも似たコメントも寄せてくださる方もいたくらいです(笑)。
僕たちが2作目の公開に時間をかけたのには、2つの理由があるんです。1つ目は、TRiECHOESとして大きな方向転換に舵を切ったこと、2つ目は限られた予算とメンバーでクオリティを最大限に高めるには、とにかく時間をかけるしかありませんでした。
―― 方向転換とは、具体的にどのようなことですか?
Helzen たくさんの方たちから「早く出したほうがいい」「同じ形で量産することが大切だ」とアドバイスをもらったのですが、僕は1作目を俯瞰してみたときに、この作品は10年後も見られているようなものではないなと思ったんです。
このままいったら、TRiECHOESはただのEDMを箏でカバーする集団で終わってしまう。そこで改めて、TRiECHOESの存在意義について考えたときに、このエンターテイメントの持つインパクトを社会課題に昇華できないかなと思ったんです。
―― エンタメを社会課題に昇華させるというのはどういうことでしょうか?
Helzen 1作目で強く感じましたが、本当にエンターテイメントにはすごい力があると思います。大きなレコード会社でも映像制作会社でもない、小さなクリエイター集団の作品が世界中に見てもらえる。なんとかこの力を活かせないかと考えていたときに、元々、学生時代、前職時代に本気で目指していた社会課題の解決とつながりました。
エンタメ、そしてクリエイティブの力を社会課題の領域で活かせたら、世界中に良いインパクトを生み出せる。これこそが、TRiECHOESの存在意義だと確信したんです。
―― なぜ、第二弾の撮影場所を陸前高田にされたんですか?
Helzen アイディアのベースは方向転換の前から出来上がっていました。元々は、単純に日本の冬から春を描きたいと思っていたんです。そこから、方向転換を決意したと同時に、アイディアをブラッシュアップしていきました。
改めて「冬から春の変化」をもう一段階深く捉えたときに、「長く苦しい時期を乗り越えた姿」だなと。じゃあ、どこに桜が咲いたらいいんだろうと考えたときに、津波が押し寄せた被災地がパッと思い浮かびました。震災という本当に苦しい冬を乗り越えてきた東北の人々の強さを桜という希望の象徴で表現できないかなと思ったんです。
今はまだ更地が多いところで桜を咲かせることができたら、多くの人を励ますことができる。そして何よりも、自分たちがそのアイディアに心の底からワクワクしました。
そこで、アイディアの実現に向けて動き出すわけですが、ここからがもう、笑っちゃうくらい大変でした。
今だから言える制作の裏側
―― 実際の制作は、どのような感じだったのでしょうか?
Helzen これは2つ目の理由に関わる話なのですが、私たちのようなクリエイター集団が、クオリティの高いものをつくるためには、制作費以外の全ての予算を削り、とにかく時間をかけてこだわり抜くしかないと思っていました。
ありがたいことに50件以上、さまざまなイベントの出演依頼を頂いていたのですが、全てお断りして制作に集中しました。私自身もほぼ全ての経済活動を止めて制作していたので、何度か死にかけて…。ある日、コンビニのATMでお金を引き出そうとしたら、なんと1000円も残高が入っていなくて、膝から崩れ落ちたことがあるくらいです。
―― ははは、それは本当にヤバイですね。
Helzen それでも、空き時間を使って、毎週のように東北に足を運びました。軽く20回以上は行ったと思います。そこで現地の人に話を聞いたり、津波の被害が特に大きかった沿岸部を全て見てまわりました。予算の関係上、車での移動だったので、みんなで東京から往復16時間の距離を交代で運転しながら行きましたね。
僕に関しては、座りすぎで前立腺炎になってしまいました(笑)。本当にきつかったけど、とにかく現地の人の思いや現状を知りたかった。そしてそれをエンターテイメントで表現したかったんです。
―― 相当な人数が制作に関わっていたと思うんですが、何名くらいが携わっていたのでしょうか?
Helzen エンドロールまで見て頂いた方たちに「大人数のチームですね」って言われることがあるんですが、当時、実際に制作しているメンバーは5人ほどでした。映像、ドローン撮影、編集が1人、CG制作も1人という、かなり無茶な体制だったんですよ。
夜中に運転して、朝方に到着して夜まで撮影、そしてまた夜通しで運転して東京に戻るという撮影を10回以上繰り返したと思います。ほとんどの撮影がスタッフも合わせて4人だったので、演者のSaraiやM-Foxもカメラアシスタントとして自分の撮影じゃないときは走り回ってましたよ。
映像としては全然成立するけど、使っていないカットがたくさんあります。このシーンも本当は使いたかったのですが、ストーリーを意識したときに、使わない選択をしました。ぜひみなさん見てください。
あの豪雪が意味していたもの
―― こうしたプロセスがあったから、1年という歳月がかかったわけですね。
Helzen 実は、9月の時点で完成していたんです。しかし、冬のパートを表現するのに当たって、元々は4月に撮影したカットを使っていたのですが、改めて映像を見たときに、これでは被災地の皆さんが乗り越えてきた困難な道のりを表現できていないと思いました。何より、エンターテイメントとして面白くなかったんです。
そこで、メンバー全員に話し、制作を冬まで待って、豪雪の中で撮影したいと伝えました。経済的にも、体力的にも追い込まれていたなかで、さすがにメンバーに反対されると思っていましたが、全員が2つ返事でやろうと言ってくれました。
身長よりも高い雪が降り積もる特別豪雪地帯での撮影は過酷でした。雪をかきわけて、スコップで固めながら箏を運び、ー5度の中、10時間以上ぶっ続けての撮影。寒いなんてもんじゃない、本当に辛かったですよ。屋根がある場所に戻るのにも一苦労だったので、Saraiは豪雪の中で衣装を変えていました(笑)。
本当にこの過酷な状況で最後までついてきてくれたチームメンバーに感謝しています。
クリエイティブファーストでなければ意味がない
―― 東北の厳しい冬を表現するために、そこまでストイックな環境で撮影されていたことに正直言って驚きました。ここまで追い込んで作ったからこそ、人々の心に刺さる作品になったのではないでしょうか。
Helzen ありがとうございます。1作目ほどの爆発的な再生回数の伸び方はしていないですが、TRiECHOESの大きな方向転換にたしかな手応えを感じています。皆さんからいただくコメントの内容も1作目と大きく変わり、より一人一人に深く刺さるものになったのではないかなと思っています。
何より、震災の文脈を知らない海外の視聴者の方がエンターテイメントとして楽しんでくれたことが本当に嬉しかったです。最初はエンターテイメントとして楽しみながらも、コメントなどを読んだきっかけで被災地に関心を寄せて下さった海外の方もたくさんいらっしゃいました。
私たちは社会課題を扱うジャーナリストでもなければ、国際機関のような社会課題解決のための機関でもない、エンターテイメントやクリエイティブをつくる集団なんです。だからこそ、クリエイティブ・ファーストを貫くことに価値がある。社会的意義はあるけど、だれからも見られないような映像には意味がないと思っています。
面白いとかかっこいいとか、そういったシンプルにエンタメを見るときにみんなが抱く感情を大切にしながら、これからも制作していきます。
―― ありがとうございました! 次回のインタビューで先日、公開された第三弾の動画についてインタビューさせていただければと思います!
>>TRiECHOES(トライエコーズ)というムーブメントのはじまり (後編)はこちら<<
【おすすめ記事】
2021年6月に開催された、陶芸家・古賀崇洋氏の個展にて、TRiECHOESがゲスト出演し、生演奏を披露。工芸にエンターテイメントを掛け合わせるという発想によって、現代工芸の新たな見せ方が提示されました。また、会場では、展示作品の一部にNFC(Near Field Communication)を搭載した証明書カードを付属。伝統工芸分野では初めての取り組みです。
危機的な状況にある工芸の、その付加価値をいかに高めていけるか?
そもそも、アートと工芸の違いとは?
何を基準に作品を購入したらいいのか?
これらの課題・疑問について、工芸文化史の専門家として日本の芸術文化の分野で幅広くご活躍されている前崎信也氏と、B-OWND・プロデューサーの石上賢が語り合います!
ブロックチェーンの技術を活用して生まれたNFTが、アートの分野で注目されています。
一体、どのようなテクノロジーなのでしょうか?
この記事では、NFTの概念とアートの分野で話題になっている理由、
そしてB-OWNDにおける取り組みについてもご紹介します。
関連記事